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新宿区の回答文に対する「トラスト基金」の所感

 

 昨日、近隣住民のみなさんが新宿区へ提出した「公開質問状/その4Click!に対する、416日付け新宿区の回答書 Click!を公開しました。質問および回答ともに専門性が高く、わかりにくい内容ですので、「下落合みどりトラスト基金」の視点からの所感もまじえながら、できるだけわかりやすく解説してみます。

 今度の回答も、残念ながら住民側の質問に対しては“肩すかし”、意味不明、さらには沈黙といった内容となっており、行政庁の主張立証責任を果たした内容とは言いがたいものでした。特に「質問3」の「A-イ」、および「質問7」に関する回答は、にわかに信じがたいものです。この部分だけでも、ぜひご一読ください。

 

質問1 「新宿区行政手続条例を無視した違法な認定処分」について

新宿区手続条例5条(審査基準)

 1 行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその条例等の定めに従って判断するために必要とされる基準(審査基準)を定めるものとする。

 2 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

 3 行政庁は、条例等により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により、審査基準を公にしておかなければならない。

 特例で認定などを出すときは、渋谷区や豊島区のように、今回のような混乱を招いたり同様なケースがある場合に備え、明確な最低基準を決めるべきではないか?・・・という質問です。

●回答および所感

 新宿区は、解説書『東京都建築安全条例とその解説』(発行・社団法人東京建築士会)を建築課の窓口に置き、これに照らし合わせて個々に検討していると、自らの正当性を主張していますが、この解説書のどこにそのような記載がされているかを指摘できずにいます。さらに、審査基準をこのような民間が発行する解説書で説明するのは、たいへん奇異に映ります。

 また、住民のみなさんからの情報では、審査基準に適合するとした処分庁の判断に過誤・欠落があり、違法となった判例(伊方原事件の最高裁判決)や、審査基準を設定して公正かつ合理的に適用しなければならないと最高裁で判決のあった、個人タクシー免許事件などの例を引き、今回のケースもきちんとした基準で判断すべきだったと主張されています。さらに、新宿区は「審査基準が困難なものには審査基準を設ける必要ない」としていますが、同じ条例を使用している渋谷区、中野区Click!、豊島区では明確な(最低)基準を設けており、決して困難とは言えないと思われます。

 「トラスト基金」では、安全認定処分の状況について新宿区を除くすべての特別区(22)、および武蔵野市、調布市、国立市、八王子市の4市を加えた、合計26自治体に対し、アンケートClick!調査を実施しています。その中で、「貴区(市)では、過去数年間で東京都建築安全条例41項に関し、特例の43項での認定処分を行いましたか?」という質問に対し、アンケートの回答では、「年に数回ある・・・0件」、「年に1回程度・・・2件」、「ほとんどない・・・2件」、「全くない・・・20件」、そして未回答2件というものでした。新宿区は、「審査基準を定めているのは、渋谷区、中野区および豊島区のみで、残りのほとんどの区は、条例解説書を審査基準としている」と釈明していますが、この言い方はまったく逆さまです。ほとんどの区市では、特例安全認定そのものを実際には行っていないわけですから、そもそも審査基準を定める必要などないはずです。

 渋谷区が自ら定めた基準では、本計画のような建築規模の場合、進入路の道幅が最低条件で8m必要であるにも関わらず4mしかないケースでは、避難路確保のため周囲に植栽や建物のない3m空地が最低限必要だとしています。しかし、“たぬきの森”の建設計画では、植栽のため1m程度の空地しかないところも存在します。いくら新宿区が「安全」だと認定したとしても、渋谷区の規定の1/3近くの値では、どこまでも多大な疑問が残ります。

 同じ条例を運用する隣り合わせの区において、なぜこれだけの差が出るのでしょう? 新宿区建築課が、密室で行った特例認定を「区長の裁量」と言いつくろい、後追いで認定の理由づけを探しまわっているようにしか見えませんので、その釈明に無理やこじつけが出てくるのもやむを得ないかもしれません。区長自らが、建築課の先走り(暴走に見えます)による“フライング認定”には、議会で遺憾の意Click!を表明しています。

質問2 「長屋と判定したことの脱法性」について

 “たぬきの森”の建設計画は、4階建て(地上3階、地下1階、なお屋上にペントハウス)、約30戸、2,800m2の集合住宅で、100人前後の入居が予定されています。しかし、「重層長屋」という概念ができた当時は、当然ながら30戸以上の大きな建築物までは想定されていなかったと思われます。「重層長屋」と銘打てば、50戸でも、100戸でも建設可能なのでしょうか? 出口さえ別々に設置すれば、5階建てでも、10階建てでもよいのでしょうか?

 やはり、そこには防火安全上の観点から、自ずと常識的な限界があるのではないかと思われます。建築基準法では、このような規模形状の「長屋」が建つとは想定していなかったはずですので、完全な脱法行為Click!ではないのか?・・・という質問がなされました。

●回答および所感

 新宿区は、以前より「定義上は長屋」ということを繰り返してきています。質問は、建築基準法について特殊な建築物を規制する、本来の趣旨・目的から解釈すべきではないかと主張しているわけですから、新宿区の正面からの回答を期待していました。しかし、回答文では沈黙したままです。また、このような規模形状の建物が、実際に「長屋」として過去に建築された事例があるのかという質問に対しても、なんら回答がないのはたいへん残念です。

 行政当局には、豊富な実績情報やケーススタディが蓄積されているはずですから、過去の具体的な事例をあげて説明すべきです。特に、本件のケースと同様、安全条例43項の安全認定がなされた敷地に、そのような規模形状の「長屋」がかつて建築されたという事例を、具体的に例示していただければ説得力も高まったでしょう。

 質問1にもありますように、本来必要な道路幅の半分、あるいは基準の約3倍の建物を特例で認定し、消防署が開設されて以来の意見書が付帯されるほど、きわめて疑義の多い異常な建築ケースですので、新宿区が同様の事例を住民側へ示せない限り、「安全性無視の施政を、日本で初めて新宿区が行おうとしている」と住民側から糾弾されても、いたしかたないと思われます。

 

質問3 「安全認定の違法(条例41項規定と同等以上の安全性の欠如)」について

 条例41項規定とは、接道部分から道路状空地(通路)をずっと8m幅で確保しなければならないという規定です。しかし、本件は4m幅しかなく本当に安全なのか?・・・という質問でした。

●回答および所感

 新宿区(建築課)は、建築課窓口に置かれた解説書にもとづき、「総合的に区長が安全上支障ないと判断した」と回答しています。しかし、そもそも最大の錯誤は、区長のまったく知らないところで建築課が勝手に判断し、それを今さらながら「区長が判断した」と責任を転嫁している点でしょう。これについては、中山新宿区長が議会であえて「遺憾の意」を表明していますので、住民側が無責任な建築課にもっとも問題を感じ、怒りをつのらせている点です。そして、このページでも「新宿区」という区行政の全体を指す抽象表現にはせず、あえて「新宿区建築課」と具体的に部局を特定して記述しているゆえんです。

 特例認定を下した、当時の課長や係長はすでに異動しており、後任の課長はあたかも自分には責任がないと言わんばかりに、「トラスト基金」の質問に対して「そんな詳しいことまで聞かされていない」などと開き直り、住民のみなさんの怒りをさらに倍化させています。新宿区の回答では、事実関係はさておき、“形式論”としてはいくつかの理由が記されていますので、そのなかの疑問点を見ていきましょう。

Aア (近隣との距離=空地)について

 新宿区は、建物周囲の安全空地は24mあり、避難路だけでなく近隣への延焼も考慮していると回答しています。特例認定の際、「安全空地は避難路として使用し、植栽や建築物はないもの」と自ら定義しているにもかかわらず、実際には「みどりの条例」の“しばり”にあい、既存の植栽を伐採する計画にはなっていません。

 これは、みどりの保全にはたいへん望ましいことですが、避難路として考えた場合、非常に狭隘なスペースとなってしまいます。先述の渋谷区では、3mの空地には何も存在してはいけないことになっています。渋谷区の場合、路上に何もない3mの道路があれば、いちおうは安全だという考えのようです。通常、道路の外側に沿った樹木などは見られますが、道路内に樹木が生えていないのは当然でしょう。新宿区では、「特例」として道路上に植林してもよいのでしょうか?

 一方、延焼対策としての安全空地は、近隣の建物との距離も合わせ35mあるので、法令の基準を満たしていると回答しています。しかし、消防専門家の鑑定意見でも、「東京消防庁の火災の実態」等の資料類から、実際には5mはおろか、6m超でも延焼しているケースがあることが指摘されています。これを勘案すれば、回答書にあるように「重大な被害をおよぼすことを防ぐことにもなる」とは、決して言えないと思われます。

 本件は、「特例中の特例」のはずですので、新宿区が審査基準とする「建築物の敷地において広い空地を設けた状況」とは、短絡的に判断できないと思われます。やはり、条例43項の特例を適用するためには、たとえば渋谷区の審査基準のように、安全のための措置を上乗せして、1項と同等の安全な状況を作り出す必要があると、考えるべきではないでしょうか。

建築物の全周囲に3mの空地が存在すること。なおかつ、当該空地が通行上、避難上、防火上有効であることが、条例43項安全認定の最低限の絶対条件。

Aイ (旗竿状の進入路が4mしかないこと)について

 新宿区の見解では、4mという幅は建築基準法第42条に規定される道路の基準を満たしており、少なくとも安全面は一般道路と同等に確保されているとしています。そもそも、条例41項の規定は、2,000m2ないし3,000m2の建築物の敷地は、接道部分から道路状空地(通路)がずっと有効8mの幅員がなければならないことを要求しています。にもかかわらず、回答書は「本件建築計画敷地内に有効幅員4mの道路状空地(通路)を確保することは、本件建築物のみが接する道路が確保されていることと同等であり、十分に安全である」と言っています。 これは、41項の規定をまったく空文化するものであり、論理的に破綻したものと言えるでしょう。

 消防専門家も、「接道部分の幅員を8m確保した場合は、消防隊の活動に必要な幅員を4m確保しても、なお住民避難用通路として幅員4mを確保できる。これにより、住民避難と同時に消防車両を建物に接近させて迅速な消防活動の着手が可能となる。また、8mの幅員は、救急車両とすれ違うのに十分な幅員である」とコメントしています。

 4mの幅員は、道路として認められるのは確かですが、このケースは特例中の特例認定です。100名規模の住居(以前はひと家族のみが在住)の唯一の避難路として、規定の半分の道幅で30m以上もつづくのでは、あまりにも心細く危険であると考えます。さらに、その道沿いには耐火性の脆弱な明治時代の木造家屋が隣接しています。わたしたちには、30mの避難路が渓谷にかかる幅4mの長い吊り橋にすらみえ、火災が起きた際の大混乱が容易に想定できます。

 新宿区が言うように、4mで十分に安全が確保できるのであれば、最初から条例も4mと規定しているはずです。すなわち、条例で「8m以上は絶対に必要です」と規定しているのにもかかわらず、「いえいえ、4mも道路なので安全性に変わりはありません」と、新宿区ならではの「論理」を展開しています。誰でも見透かすことができる、お粗末で情けない詭弁と言えるでしょう。

Aウ (消防空地の確保)について

 新宿区は、12m×6mの消防空地を真ん中に確保しているので、標準的なポンプ車も進入できるため、消火には支障がないとしています。以前、建築審査会で建築課課長が認めたように、これはあくまで消防の専門家ではない、新宿区建築課の素人見解にすぎません。

 消防専門家の意見では、本計画の「消防活動用空地」へ消防車両が進入し、消防活動を行うことは警防戦術上まったく考えられないとのことです。「消防活動用空地」では、車両の方向転換さえ行えず、火災時には濃煙熱気に囲まれ退路を絶たれる可能性があり、実際に消防車両が空地に進入して活動することなどありえません。したがって、「消防活動用空地」の存在は絵に描いたモチ同然と言わざるをえません。

Bウ (周辺市街地の状況)

 消防同意時における新宿消防署の意見によれば、「仮称<エクセレント目白御留山>を建築する予定の新宿区下落合四丁目地域は、当署で以前から『地勢情況により消防活動が困難となっている区域』として警防対策を策定している地域です。当該建築予定地へ消防自動車が向かう道路は一本であり、さらに、その道路の最も狭い地点で電信柱と塀の間を実測したところ、3.3mでした。この地域は道路狭隘地域であり、消防活動の困難な地域と言わざるを得ません」と、多大な懸念が表明されています。

 本建設計画の周辺市街地は、もともと火災危険度の高い地域であり、消防活動が困難な地域であるという、消防署と住民側の認識は一致しています。新宿区は、従来の詭弁をもまじえたさまざまな主張に加え、周囲は閑静な住宅地で個々の住戸にも余裕があり、道路状況も安全で問題がないと回答しており、この課題でも区と住民側の主張は平行線のままです。

 実際の立地条件では、周辺はすべて幅員4m以下の狭い道路が迷路のように入り組み、車両通行禁止の坂道や行き止りの階段なども存在します。さらに、新宿区が自ら発行した「防災点検マップ」、東京都作成の「地震に関する地域危険度測定調査」等を参照しても、危険地域に指定されていますので、きわめて消火活動がしにくいエリアであることは間違いありません。

質問4 「消防署長の意見書を根拠とした誤り」について

●回答および所感

 今回、おそらく東京消防庁はじまって以来の、異例ともいえる「消防署長の意見書」Click!が出されました。建設計画の敷地が、新宿消防署で「地勢情況により消防活動が困難となっている区域」として警防対策を策定している地域にあり、さらに旗竿状の特殊な形状の土地に規定の約3倍の建築物を建てようとしているからで、これは当然の指摘であると思われます。

 新宿区は、「消防署の指導により、連結送水管の設置等をもって、この地域の安全性が確保されている」と主張しています。しかし、消防署長の意見書は「建築物と敷地の関係」について、「消防活動困難地域」や「路地状敷地の狭さ」を指摘した内容となっています。避難器具、防火戸、連結送水管の設置など建築物そのものの設備については、新宿区が業者に対し一定の指導をしたものにすぎず、建築確認にあたり消防署長の意見を踏まえたものではないじゃないか、というのが住民側の主張でした。

 新宿区は消防署に相談したとしていますが、住民側は開示文書にはそのような記載はないとし、この課題も平行線のままとなっています。住民側は、消防署に相談したという“証拠”の開示を求めていますが、新宿区はいまだ出せないままの状態がつづいています。

 

質問5 「三棟の建築物を一棟の建築物として建築確認したことの違法性」について

 これは先月、本サイトへ掲載しました岩波書店の『世界』Click!のページでもお知らせした問題で、新宿区に対し確認の質問をしたものです。

●回答および所感

 新宿区の回答では、エキスパンションジョイントを外せば機能が成り立たないため、1棟とすべきであるとしています。まるで、建設業者のような回答ぶりです。この「1棟」認定は、法律的にも技術的にみても、建築基準法21号(建築物)、25号(主要構造部)、施行令812号(エキスパンションジョイント)に違反しているように思われます。興味がおありの方は、岩波書店の『世界』をぜひご参照ください。

 

質問6 「本件確認済証の違法交付」について

 この建設計画の建築確認では、敷地南側に接する崖の安全性を確認しないまま、新宿区建築課は前代未聞の「条件付き確認」をしています。住民側の質問は、建築確認済証の交付は建築基準法64項規定にある、建築基準関係規定の法適合性を確認しないで行ったものであり違法ではないか?・・・というものでした。

●回答および所感

 国土交通省の専門家も驚く「条件付き確認」に関しては、新宿区は沈黙したままなんら回答をしていません。法廷において、この課題は新宿区の大きなネックになる可能性がありそうです。

 

質問7 「建築確認にあたりさらに危険側に変更することを認めたことの違法性」について

 質問3でも少し触れましたが、新宿区は安全認定の処分(特例認定)にあたり、「隣地との間に有効幅員22.5mの避難経路(通行の障害となる建築物、工作物は設けません。既存の植栽、樹木についても通行の障害なる場合には伐採、移植することとします)を設けること」を条件としました。しかし、建築確認の際は「安全空地内には、避難・通行上支障とならない幅1.5mの通路が確保されている」と、自らの認定条件を満たしていないことを認め、それでも安全上は支障がないと強弁している、新宿区建築課の驚くべき矛盾と豹変ぶりについての質問でした。

●回答および所感

 回答書では、「安全空地内には、避難・通行上支障とならない幅1.5mの通路が確保されている」といい、それでも「危険側へ変更していません」と相変わらず強弁しています。空地が22.5mから1.5mへと大幅に縮小されているのに、「危険側へ変更してい」ないなどというのはまったく意味不明の回答で、不可解としか言いようがありません。

 このように、新宿区(建築課)の本質的な問題は、住民側が質問をつづければつづけるほど、新宿区民の視点からは乖離していき、その回答がまるで当の業者の代弁者であるかのように変貌していくところにあります。つまり、新宿区民の視座ではなく、千葉県の業者の視座へと限りなくスライドしつづけているように思えることです。

 上記の回答がその好例ですが、論理的に破綻をするとまったく意味不明な混乱を起こすことでも、それは明らかになりつつあります。その先にくるものは、質問6と同様に“沈黙”することで、嵐が通りすぎるのをただひたすら待つことでしかないのでしょうか? 新宿区民として、ほんとうに情けないことだと思います。

 

質問8 「行政運営における透明性の侵害」について

 新宿区建築課が行った密室での特例認定や、裁判でも事実上の敗訴となった隠蔽体質Click!に関する質問です。

●回答および所感

 まず、建築課の密室における特例認定に関しては、謝罪も弁明もありませんでした。住民側の提訴により、すぐに自らあわてて公開をしたことに関しては、住民側に手間をかけさせたことについてのみ、謝罪がありました。回答文からは、新宿区建築課が行政情報公開条例を守り、行政運営の透明性を確保しようとする姿勢は、残念ながら感じられません。

 住民側の提訴により、間をおかず情報公開を行った理由として、関係者の同意を得たので公開したと回答しています。しかし、行政情報の公開は、関係者の主観による同意で行われるものではなく、客観的に判断されてしかるべきものです。また、差し替え前の書類は申請者に返却し、区には存在していないとのことですが、行政の意思決定過程の透明性の確保という観点からは、差し替え前の書類も保存しておくことは、行政当局として当然の責務と思われます。

 

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