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岩波書店『世界』4・5月号にエキスパンジョン問題掲載

 

 いまだ新宿区建築審査会の審査結果は出ませんが、近隣のみなさまが注目する建築基準法「一敷地一建物」の大原則問題に関する記事が、岩波書店の『世界』4月号および5月号に連載されましたので、可能であれば著者にご意見をいただこうと考えています。

 

「数の偽装」が始まったClick!――裁判官が崩壊させる建築基準法と都市計画法()()

●記事内容の要約

 各地の多彩な事例を紹介し、エキスパンジョンなどによる脱法を具体的に解説しています。この脱法行為による業者のメリットは、分離されているマンション棟を「一敷地一建物」の原則に反しエキスパンジョンなどを用いて1棟と見なすことにより、建物の高さや規模、日照、接道などの規制が大幅に緩和されてしまう点にあります。これにより、近隣住民への悪影響ばかりか、当の建物への入居者さえも粗悪な環境にさらされ、大きな被害を被ります。当然、さまざまな規制が緩和されますので、建設業者には“濡れ手に粟”の膨大な利益が入ることになります。

 建築基準法の「一敷地一建設物」の大原則は、施行令第一条第一号に記されており、いかに建築における基本的なテーマであるかがわかります。1棟を巨大な建造物にしてしまうと、構造的にもきわめて不安定となり、地震などの際に倒壊の危険性が増大してしまうため、現実には建てることができません。ところが、多棟に分離して建設すると「一敷地一建物」の原則に反してしまうため、別途新たな認定を取得しなければなりません。敷地の広さに見合った建築を行ううえで、これは当然のテーマだと思いますが、営利第一主義の建設業者は法の網の目をかいくぐり、少しでも階層が高い棟を数多く建築し、多数の部屋を確保しようとします。

 ここで登場するのが、エキスパンジョンなる考え方です。建物と建物の間に、なんらかの名目で共有スペース(実は建物同士の連結部)を造り、構造上は「1つの建築物」と解釈できるような“見せかけ”を行うことになります。つまり、ひとつの敷地にいくつもの建物を建てても、それらがどこかで連結されていれば「一敷地一建設物」の原則に違反していない(実質は脱法行為)・・・と強弁することができます。このような違法建築が認可される背景には、民間の確認機関による安易な「建築確認」のほか、建築審査会が業者寄りの人物で構成されていること、そして裁判所の不十分な審議による不可解な判決などにも問題があるとされています。

 詳細につきましては、岩波書店の『世界』4月号・5月号をぜひご覧ください。「下落合みどりトラスト基金」では、“たぬきの森”に建設が予定されている建物Click!が、まさにこのエキスパンジョンによる構造ですので、可能であれば著者にご意見をいただこうと考えています。

 

●下落合のケース

 たぬきの森に建築予定の「重層長屋」は、3棟の建物が建つ計画となっています。しかし、このままでは建築基準法違反となってしまいますので、個別の棟がエキスパンジョンで連結される計画です。その結果、建物の外観上はペントハウスや地下階を含めると、規定の10mを遥かに超えるものとなります。しかし、1本道の進入路は規定の半分である4m幅しかありません。にもかかわらず、新宿区建築課の担当者が独断で特例認定を出してしまったため、規定の約3倍のマンション様「重層長屋」建設が可能になってしまった経緯は、何度も本サイトで触れてきました。この違法性に関しては、現在、新宿区建築審査会において審議中です。

 なぜエキスパンジョンを使った工法を採用するのかといえば、上記の『世界』でも指摘されているように、地震の際など複数棟が連結されていれば建物への負荷が分散し、倒壊をまぬがれる可能性が高くなるからです。換言すれば、3棟が別々の建物であれば、たとえエキスパンジョンを使用して外見上はひとつの建物に見えようとも、実質は「一敷地三建設物」となります。たぬきの森の建設計画の場合、あくまでも「長屋」として認可されているため、むしろ共有部分は設けてはならず、その観点からのみ見れば3棟の分離は適法ということになります。ところが、それでは3棟別々に建築確認を取らなければならず、計画にある規模の建物は到底認められません。建築基準法のもっとも基本的な、「一敷地一建物」の原則に違反してしまうからです。このテーマが、建築審査会における大きな争点のひとつとなっています。

 『世界』45月号で言われている主張を、下落合のたぬきの森ケースに当てはめますと、ここでも実質「一敷地三建設物」を無理やり「一敷地一建物」と強弁することにより、周囲への影響はもちろん、計画されている住戸の日照も「一敷地一建設物」の認定のため大幅に規制が緩和され、日照が大幅に阻害される可能性があります。実際に計算はしていませんので確実とは言えませんが、もっとも損害を被るのは高い費用を支払い実際に入居される方々かも知れません。新宿区建築課は、このような違法行為や住民への被害について考えたことがあるのでしょうか?

 たぬきの森の建設計画では、最初からわずか1,000m2未満の敷地に、3,000m2未満の土地にのみ適用されるはずである3倍以上の巨大な建物を建てるという、きわめて違法的かつ根本的な無理があるため、矛盾だらけのマンション様「重層長屋」計画となっています。『世界』の記事でも触れられていますが、たぬきの森ケースも行政(新宿区建築課)が新宿区の住民側ではなく、明らかに業者寄りの認定をしていることがよくわかります。

 前回の建築審査会における結論が、東京地裁でことごとく否定Click!されたにもかかわらず、新宿区建築審査会は本年129日の口頭審査Click!で支離滅裂な発言をし、住民側ばかりか当の行政や業者側からさえ呆れられるありさまとなっています。広範な分野からの視線が注がれる中、建築審査会の動向が注目されます。

 

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