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「トラスト基金」が各自治体へアンケートを実施

 

 先日、こちらでご報告いたしました中野区中野3丁目の「建築確認」取り消し事例Click!で、中野区が行ったアンケート調査により、東京都安全条例第43項による特例認定が、他区ではきわめてまれで特異なケースであることが判明しました。

 

 「下落合みどりトラスト基金」では、下落合の屋敷森伐採と長屋式集合住宅の建築問題のベースとなりました、処分認定(東京都安全条例第41項に対する同3)に関する独自のアンケートを急遽作成。101113日に新宿区を除く東京都22区、および武蔵野市、調布市、国立市、八王子市の計4市の建築審査係へ向け、さっそくアンケート調査を実施いたしました。

当該自治体における、建築審査を行うセクションです。

 各自治体の建築審査のご担当は、通常業務でご多忙中にもかかわらず、たいへん丁寧に対応くださいました。みなさま、建築審査のプロとしての明快かつ厳格な意見を数多くお寄せいただき、わたしたちもたいへん勉強になりました。また、過去の認定状況を調べて連絡をくださったり、下落合の屋敷森のかたちや周囲の状況を細かく聞いて意見をお寄せくださるなど、とても真摯に対応してくださいました。ここに改めて、深くお礼申し上げます。

 

 アンケート調査の結果、およびその特徴や傾向は次の通りです。

「下落合みどりトラスト基金」自治体アンケート

1 東京都建築安全条例第41項に対する3(特例)適応に関し、貴区()では明文化されていますか?

   .(明文化が)ある・・・   .ない・・・24   .未回答・・・1

 

2 貴区()では、過去数年間で東京都安全条例第4条1項に関し、特例の東京都建築安全条例第3項での処分認定を行いましたか?

   .年に数回ある・・・0   .年に1回程度・・・2

   .殆どない・・・2   .全くない・・・20    .未回答・・・2

 

3 貴区()で下落合の屋敷森と同じようなケースがあれば、東京都建築安全条例第3項で認定しますか?

   .認定する・・・0   .建物や周囲状況を考えて検討する・・・8

   .基本的には難しいが検討する・・・2   .認定しない・・・10

   .想定外・・・2   .未回答・・・4

 

 以上のアンケート結果の特徴や、傾向をまとめてみます。

 Q1の第1項の明文化は、わずか1自治体(渋谷区)のみで、各自治体の裁量部分が大きいことがわかりました。2の第3(特例)認定は回答のあった24自治体のうち、過去数年の認定については、「ない」が20自治体、「殆どない」が2自治体、「ある」が2自治体のみでした。

 

 Q3では、回答があった20自治体において、「認める」が0、「計画や周囲の状況を考慮し検討する」が8、「難しいが検討の余地あり」が2で、「認めない」が10でした。「検討の余地あり」とした自治体のほとんどは、実際の図面や状況を見ないとなんとも言えないといったものです。「認めない」とした自治体の理由は、「認定の緩和条件には2方向避難が必須で、8mから1階級下の6mであれば認定は考えるが、2階級下の4mを特例で認めるのは無理」などの見解が多く、安全や防災の主旨から大きく逸脱し、第3項にある「同等の安全確保」は物理的に不可能という意見が大半でした。

 さらに、建築審査の基本は「(東京都建築安全条例ではなく)建設基準法の第1条での内容に従う」というご指摘がみられたことです。「業者は、条例の数値を最高条件と位置づけているが、審査する立場では法律(建築基準法)の主旨として、最低条件と位置づけるのが妥当だと考える」とのコメントもいただきました。これはしごく当然のことであり、『建設基準法』というもっとも基本となる法律の冒頭(1)に書かれていることで、実に説得力のある姿勢だと思います。(ページ末参照)

 

 また、中野区のケース(東京都安全条例第42)がなぜ6m必要かとういうことについて、ある自治体の建築審査担当者は、「消防車は約2.5mの幅がありますから、6mあればなんとかすれ違えるので、どうしても6mが必要なのです」とのこと。東京都安全条例第41項でも、敷地面積にしたがい必要な道路幅が6m8m10mとしだいに増えていきます。そして、ここでも2項と同様に、6mが最低条件となっています。

 

 下落合の場合、道幅4mでは緊急車両のすれ違いはまったくできず、業者計画の消防空地(消防車の活動するスペース)をいくら造ったとしても、公道とは接っしていない袋小路の狭い路地のため、2台目以降の緊急車両(消防車・救急車・レスキュー車など)は、いったんバックして敷地の外へでも出ないかぎり、入れ替わっての活動ができません。下落合のようなケースは、まったく認められないとする自治体でも、「袋小路の道幅が4mではなく1階級下の6mなら、なんとか認定を検討してもよい」とする意見が多かったのが象徴的です。

西門跡から見た建設予定地へとつづく4m路地。

 さらに、4m路地から出た公道も非常に狭く、目白通り(北側)からは道幅4m程度のクランクのある道路で、一方(南側)は車両の通行が不可能な2mの急坂で行き止まり。周囲の状況をトータルに判断すると、50%の自治体が「(下落合の屋敷森ケースは)認定できない」との回答を寄せています。

 

 当アンケートは電話による調査ですので、全自治体の審査担当の総意を示しているとは言えませんが、建築審査の現状と趨勢を把握するには、たいへん意味のあるアンケートであったと思います。上記の調査結果からも明らかなように、「特例」はあくまで例外中の例外であって、Q3で「検討の余地あり」とした自治体でも、ここ数年で特例認定を実際に行ったのはわずか2(4)自治体にとどり、まず適用されるものではないことがわかりました。

 

 2方向避難が大原則の中、下落合の屋敷森のようにその大原則さえ存在せず、唯一の公道までの避難路が規定のわずか半分しか満たしておらず、その4m幅の路地が延々と30mもつづく状況での認定処分は、まがりなりにも公道に直接面している中野区のマンションの「建築確認」取り消しよりも、さらに大きな危険や問題をはらんでいるといえます。

 

 最後に、新宿区議会の定例会における区長発言でも明らかなように、本来、認定は区長が行うにもかかわらず、区民の代表たる区長がまったく知らない密室で勝手に認定されてしまった可能性が高いという点を指摘しておきたいと思います。他の数多くの自治体と比較しても、このような非常識で特異な認定が、新宿区建築課の独断で決められてしまったことは、大きな社会的問題にも発展しかねません。13日に行われた新宿区議会・環境建設委員会の視察により、新宿区にこれ以上汚点を残さぬよう、勇気ある決断を下していただきたいと思います。

 

そして、「トラスト基金」へみなさまから寄せられた23,262万円(9月末日現在)が、屋敷森の保存・公園化のために遣われることを切に願っています。

 

<<参考>>

●建設基準法 第1

この法律は、建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。

 

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