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建築基準法と消防同意からみる「長屋」建設の疑問点

 

 1114日のニュースで、新宿消防署の意見書と建築確認における疑問点をお知らせClick!しましたが、きょうは大きなテーマとなっている「長屋」という建築仕様について、建築基準法や消防同意の観点から、疑問点を再検証してみました。

 

 “たぬきの森”(旧・屋敷森)2004(平成16)当時、現状有姿(前田子爵邸の移築と伝えられる古屋付き)のまま売りに出されていました。このとき多くの業者が、この敷地には集合住宅は建てられない(採算が合わない)と考え、土地の購入を見送りました。しかし、当時の新宿区建築課による主導で、中山新宿区長や周辺住民に気づかれぬよう、突然、計画されているマンション状の共同住宅を「長屋」と認めてしまったのです。これは、同じ建設業者の間でも、不可解な出来事として記憶されたのではないでしょうか?

 

 「下落合みどりトラスト基金」にも、この間における談合の可能性などに興味を持ったマスコミ数社から、取材がつづきました。(日本テレビ放送網では放映) 現在では、明らかに違法建築という周辺住民の方々の認識のもと、東京地裁や東京高裁、新宿区建築審査会で建築確認の取り消しなどを審議中です。明らかに違法だと思われる建築物が、「長屋」と位置づけられるだけで建てられてしまう不可思議な現状を、みなさまはどう思われるでしょうか。

 

■建築基準法の観点から

 みなさまは「長屋」と聞くと、江戸期の裏店(うらだな)に建てられた、差配が管理する“九尺二間の棟割長屋”や、戦後の住宅難時代に焼け跡へ臨時に建設された「十軒長屋」などをイメージされるのではないかと思います。ところが、新宿区は4階建て(地上3階・地下1階+屋上ペントハウス)計約30戸、2,800平方メートルの集合住宅(3棟に分割されているとみられます)を、区建築課は信じられないことに「重層長屋」だと解釈し、安全認定処分や建築確認処分を行っています。

 

 しかし、建築基準法では、このような規模形状の「長屋」を建設することは、そもそも想定していません。「重層長屋」とは、通例2階建ての棟つづき住宅(テラスハウスと呼ばれることがあります)で、個々の家々がそれぞれ異なった出入り口を持つ形状ですので、“たぬきの森”の「重層長屋」計画は明らかな脱法行為といえます。この“論理”でいきますと、極論すれば50階建てのビルでも別々の出入り口さえあれば、「重層長屋」の基準のみで安全・・・ということになってしまいます。

 

 当「重層長屋」規模の建築の場合、共同の廊下を設置して設計するほうが自然かつ合理的で、無理に無理を重ねて個々の住戸の出入り口を設け、法律の抜け穴をこじ開けようとしているようにしか思えません。このような路地上敷地に、マンションが建てられない(東京都安全条例第10)のは、災害時に多くの人が安全に避難できず、緊急車両のスムーズな活動が不可能なためです。しかし、「長屋」であればすぐ外に出られ、「そこは道路と同等の安全性があり」と判断されたため、現地を満足に視察もせず建設が許可されてしまいました。

 

 以前にも再三ここで触れましたが、災害時に外へ避難しても建物周囲の避難路は、同じ自治体(渋谷区)が定める半分の幅しかない部分があったり、避難路自体に崖地が含まれていたりと、到底「道」とは言いがたいものです。また、唯一公道に接する道は、規定の半分しかない幅で30m以上もつづき、その公道さえも3m以下の幅が存在する行き止まりの道で、新宿消防署は「消防は困難と言わざるをえません」と断定しています。つまり、「そこは道路と同等の安全性があり」とはほど遠いもので、まさに危険がいっぱいの「迷路」にすぎません。

 

 また、建築基準法が特殊建築物として共同住宅を規制する趣旨は、防火安全性の確保にあります。“タヌキの森”に建設予定の建物は、規模・構造・形状・戸数・階数などから見て、災害時の危険性はなんら共同住宅と異なるところがありません。法律の趣旨に照らしても、共同住宅(マンション)と規定するほうが、きわめて自然ではないでしょうか。

●長屋のイメージいろいろ

江戸の裏店にあった九尺二間の棟割長屋

下級武士の通称「足軽長屋」

戦後の焼け跡に多く見られた「十軒長屋」

■消防同意の観点から

 消防署も、この建設計画に関する消防同意の際に「長屋」としていますが、指導事項として「避難器具の設置」、「自動火災報知設備の設置」、「防火管理の実施」などを挙げています。これらの指導は、本来「長屋」ではなく共同住宅(マンション)に消防法令上の義務として課せられ、その違反に対しては罰則が規定されています。消防署は、建物の用途については区建築課の判断に従わざるをえないものの、この「重層長屋」計画が実質的にはマンションと同様の危険性があると判断し、やむにやまれずマンション並みの法令義務を指導せざるを得なかったのでしょう。

 

 このような規模形状の建物が、実際に「長屋」として新宿区内で建築された事例は、過去に存在しません。東京都都市整備局の担当部局に問い合わせたところ、本件のような規模形状の建築物が、かつて「重層長屋」として建設された事例は聞いたことがない・・・とのコメントでした。したがって、もし裁判でこれが「長屋」などと認められるようなことになれば、建築行政史上初めての驚くべきケースとなる可能性があります。つまり、各戸ごとに出入り口さえ別々に造れば、「サンシャイン60」でさえ「重層長屋」になってしまいかねないからです。

 

 

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