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業者の提訴詳細と読売新聞の報道について

 

 “たぬきの森”周辺も、ようやく秋めいてきました。先日もお伝えしましたように、98日に開かれた新宿区総務区民委員会において、たぬきの森に違法な「重層長屋」を地元住民の声を無視して強引に建設しようとした建設業者が、817日に新宿区を相手どり裁判所へ訴状を提出していたことが明らかになりました。「下落合みどりトラスト基金」事務局に訴状の内容がとどきましたので、改めて詳細をご報告いたします。なお、第1回公判は105日の予定とのことです。

■訴状内容

●提訴内容

  損害賠償請求事件:259,9286242

  (主な内訳/千円以下切り捨て:土地取得額86,000万円、媒介手数料2,709万円、固定資

産税•都市計画税2,083万円、建設工事費83,756万円、環境整備費1,872万円、事業金利21,173万円、本件解体整備および整備費18,900万円、逸失利益26,123万円、弁護士費

15,757万円)

  貼用印紙額:6218,560

●原告 建設会社代表者代表取締役

●被告 東京都代表者知事 石原 慎太郎

      新宿区代表者区長 中山 弘子

●請求の骨子

(1) 被告(区長)は、本件認定(平成161222日安全認定、平成18731)にあたり、土地性状、周辺状況等を踏まえて適切に適否を判断するべき注意義務を負っていたにもかかわらず、裁量権を逸脱濫用して本件認定を行ったことにより、原告が被害を被った。

(2) 新宿消防署長は、消防同意(建築基準法931)を行うにあたり、当該建築物の計画が建築物の防火に関する法令等に違反しないかどうかを審査する義務があり、消防活動面において困難が予測されることを認識していたにも関わらず、単に抽象的な付帯意見のみで安易に消防同意したことにより、建築確認がなされ、原告が損害を被った。東京都知事が消防を管理しており、よって東京都にも賠償責任がある。

業者による雨水の水抜きメンテ作業の様子

<新宿区の主張>

  本年2月の新宿区議会でのコメントClick!や、東京MX報道 Click!にもある通り、最高裁判決は建築主の申請を認めた行政処分を違法としたもので、区が建築主に対し不利益処分を行い、それが違法とされたものではない・・・という解釈をしています。したがって、区は建築主に対し賠償責任を負う立場にはないという主張を繰り返しています。

<読売新聞報道>

  917日の読売新聞朝刊には、『建設業者 新宿区など提訴』という見出しとともにこの問題が掲載Click!されました。紙面では、建設中に建築確認が取り消され「違法建築物」状態になっている「下落合のマンション」をめぐり、建設会社が区と都を相手取り「違法な建築確認で被害を被った」などとして、約26億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたと書かれています。区長の議会答弁、「安全認定や建築確認は申請者に建築着工を義務づけるものではない」というコメントも紹介し、区が裁判で全面的に争う構えであることも報道されています。

  また、都の「事実確認をした上で対応したい」とのコメントも掲載。工事中止の「重層長屋」に関しては、延べ床面積約2,820m23階建てマンションで「タヌキの住む森」と紹介し、延べ床面積に比べ規定以下の最小幅約4mの外部への通路しかなく危険性が高いため、周辺住民は「安全性に問題がある」と建築確認の取り消しなどを求めて提訴、昨年12月の最高裁判決で建築確認の取り消しが確定したことも紹介しています。

  さらに提訴内容について、都条例では建築確認の前提となる安全確認のためには、原則として外部への道幅が8m.必要としているが、業者は区が裁量権を逸脱して認定を行ったと主張。そして、都が管轄する新宿消防署は、区の安全認定へ安易に同意したという業者の主張も紹介しています。事実関係を報道し、行政や業者の問題点などに関してのコメントは見られません。

<「下落合みどりトラスト基金」の所感>

  業者は、新宿区が安全認定を出した時点で土地を他社より取得し、その後、新宿消防署の示した消防同意にもとづいて出された建築確認が違法とされたことで、その間に建設などへ投資した額と、完成後の販売で得られる利益を含めた損害賠償額を請求をしています。さらに、弁護士費用15,757万円(おそらく勝訴した際の成功報酬額)も上乗せしています。また、建築確認に必須の消防同意を出した、新宿消防署の責任者である都知事も損害賠償の対象となっています。これに対し新宿区は、安全認定と建築確認は違法だが実際に違法建築を建てたのは区ではなく、行政には責任がないとの姿勢です。都や消防署のコメントは、まだとどいていません。

  「トラスト基金」は本来、新宿区と業者との裁判に関してコメントする立場にはありません。「トラスト基金」としての考えは、過去に主張Click!意見Click!としてすでに掲載していますので、そちらのページをご参照ください。また、新宿消防署の消防同意が当裁判の争点のひとつになっていますが、消防同意が注目されていた当時、周辺住民のみなさんは消防署へ直接おもむいて危険性を真摯に訴え、消防署からは「当該建設予定地へ消防自動車が向かう道路は一本道で、道路幅の最低は3.3mしかなく、消防困難な地域と言わざるを得ません」という、前代未聞の意見書付きの消防同意Click!が新宿区へ提出されました。

  しかしその後、区は新宿消防署に対して、意見書は建築確認の条件ではない(あくまでも意見であり、消防同意そのものは揺るがない)ことを確認書面で提出させ、新宿区が自らの建築確認に「問題がない」ことを再確認しています。これは、新宿消防署に対する区側の圧力ともとれる行為であり、逆に消防署権限の行政に対する限界とも言えそうです。「トラスト基金」では再三にわたり、防火・消防の専門家でもない新宿区建築課が、同課題に関する安全認定を一方的に素人判断で下す危険性を訴え、建築確認に必要な消防同意では、消防署側に拒否する権限が事実上ない行政システムの欠陥を指摘しつづけてきました。

  さらに、このような問題を厳正に審査・検討すべき建築審査会が、第3者による客観的な審査機関としてまったく機能せず、常に行政寄りの恣意的人選によるメンバーで構成され、まともな審査やフェアな判断Click!ができない区の幇間的な機関となり果てていることも指摘しました。今回のように明らかな違法審査をしたケースでも、誰にもどこにも責任が生じないという無責任システムこそが元凶であり、区民の意向をまったく汲み上げない「役人仲良し互助会」と化した、愚劣で時代錯誤の構造的腐敗体質が行政の根底に横たわっているものと思われます。

  この問題の被害者は、はたして全国の寄付や住民の声を無視し、説明会では住民恫喝を再三繰り返しながらリスクを承知で多額の投資をした建設業者(新日本建設)でしょうか? それとも、違法建築によって常に生命や財産の危険にさらされている周辺住民のみなさんでしょうか? あるいは、賠償責任で多額の血税を支出する可能性がある新宿区民なのか、建設工事のボーリングにより地下水系も含めた古来からの森が奪われ、みどりの環境をなくした野性生物たちなのでしょうか? 少なくとも、これら違法行為を産み出すきっかけを作った、新宿区の担当役人たちや審査会メンバーには、現在でもなんら危機感が存在しないのは確かなようです。

 

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