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地元の声を無視しつづけた業者は本当に「被害者」なのか?

 

業者の土地購入に関する利益上乗せは19,000万円。

26億円」には、はたしてどれほどの上乗せがあるのか?

 先にもご報告しましたように、2004(平成16)12月の新宿区建築課による「特例認定(安全認定)」直後、新日本建設(建設業者)86,000万円で“たぬきの森”の土地を購入したことが判明しました。現在の注目すべき課題は、新宿区はいつ業者に対して建設途中の「重層長屋」(実質マンション)の解体(ないしは合法的縮小)を命じるのか?、また業者が建設に費やしたと称する26億円で新宿区が“たぬきの森”を購入するのか否か?、あるいは新日本建設が新宿区を相手どり訴訟を起こすのかどうか?・・・の3点に絞られます。

 読者のみなさんへ、土地購入費や建設費などをめぐって登場するさまざまな数字をわかりやすくするために、「下落合みどりトラスト基金」では判明している数字をもとに概算し、各経費や金額をおおよそ推定してみました。まず、土地購入の翌年(2005)に、業者が新宿区へ通知した売却提示額は105,000万円。この時点で、業者は土地購入金額である86,000万円へ、すでに19,000万円もの利益上乗せをしていることがわかります。また、裁判資料にはこれまでの建築費用は26億円以上(内訳未記載)と記載されていますが、この数字にも過剰な利益上乗せが含まれているのは、“前例”を見るなら容易に想像がつきます。

 大手建設会社にお勤めの方によれば、一般的に8.6億円で土地を購入すると、同額で建物を建設し、見込める利益を同額の8.6億円と計算して販売計画を建てるのが、おおよその目安だそうです。この算出法にならいますと、業者は29戸を平均約8,900万円で販売した場合、258,000万円となり、業者が提示している26億円に近い数字になります。“たぬきの森”の計画は、1戸あたり平均100m2以上の高級物件ですので、同地域における新築マンションの売り値を考慮しますと、1戸あたり平均8,900万円の販売価格は妥当な数字ではないかと思われます。

 86,000万円×3÷29戸=8,897万円(8,900万円/戸)

 さらに、以前の業者の説明では、土地購入などに借金はしていないため、固定資産税はかかっているものの金利はない・・・との回答でした。今回、土地購入資金が86,000万円と判明したことで、提示額の26億円のうち86,000万円程度が、「重層長屋」の完売後に業者が手にする利益と想定でき、この数字はかなりリアルな額ではないかと推定できます。もし、業者の主張する土地取得と、これまでかかった建設諸経費(いまだ建築途上の建物)の合計が26億円であった場合、仮りに86,000万円を利益として加算すると、1戸あたり約12,000万円とたいへん非現実的な販売価格となりますので、これまでかかった経費が26億円という数字は根拠薄弱、信頼性が非常に低いものと思われます。

 26億円(従来経費)86,000万円(利益)÷29戸=11,931万円(12,000万円/戸)

 今後、新宿区が26億円での購入を拒否した場合、業者は訴訟を起こすことが考えられます。上記の計算では、建物が100%完成していたとしても、これまでかかった費用は推定172,000万円(解体費別)です。もし、裁判で業者が勝訴しても、資金の全額が回収できるかどうかはまったくの未知数です。また、もし業者が敗訴し、新宿区が評価額の54,000万円(土地評価額)で“たぬきの森”を購入することにでもなれば、業者は118,000万円という多額の損失を被ることになり、企業にとって大きな打撃になる可能性があります。これが、マスコミなどで「業者は最大の被害者」と言われている所以です。

再びみどりはもどるか? 2006(平成18)に更地にされた土地。

業者は本当に「被害者」なのか?

 これまでの経済系や金融系のメディア報道では、業者の「被害」や開発の難しさに関する論評が目だっていますが、はたしてそうでしょうか? 最大の問題は、新宿区建築課がひそかに下した「特例認定(安全認定)」をはじめ、同課で「特例」の評価(3,000m2以下の建物が建築可能)をしていたにも関わらず、財務課では「特例」に相当しない評価(1,000m2未満の建物が建築可能)である54,000万円を土地購入額と判定した、いわゆる新宿区の「ダブルスタンダード」の課題、二度の大きな失態を露呈し機能不全に陥っている新宿区建築審査会の課題、樹木医の報告書をまったく読まずに移植を強行した新宿区道とみどりの課Click!の課題、専門家が指摘する貴重な建物や数億円の価値 Click!があると評価された庭園 Click!を、新宿区が全く評価Click!しなかった課題など、それこそ数え上げたら切りがありません。

 一方、業者は86,000万円で土地を購入したにも関わらず、新宿区や住民説明会では「105,000万円でなければ多大な損失Click!が出るので、一切減額できない」と言うそばから、実際には3,000万円も「多大な」売却額を取り違え Click!ていたり、説明会では何度も住民を罵倒 Click!し、また住民の声を無視して強行着工Click!したり、社長印のない無効と思われる書面を住民に提示 Click!するなど、一貫して不誠実な対応に終始してきました。

 「トラスト基金」では、全国のみなさんから寄せられた前例のない23,504万円にものぼる基金を前提に、新宿区への減額譲渡要請の署名を社長に提出 Click!し、新宿区も業者へ向けて再三譲渡を促しました。そのような中、地元で諸々の課題を抱える“たぬきの森”でありながら、業者は地元住民のまったく知らないところで、こっそり同敷地の売却広告を出して処分しようとしたりもしました。確かに、利益を追求することは企業としては当然のことです。しかしながら、「特例認定」があったとはいえ、すぐに審査会審議や裁判沙汰になっている土地であることは、当初から誰の目にも明らかだったはずです。裁判では、新宿区側が敗訴する大きなリスクがあり、「トラスト基金」の膨大な署名数や寄付額にみられるように、これだけの多くの支持を受けている地元の声をいっさい無視したり、他社にこっそり売却しようとする行為が、環境や社会に貢献すべき会社(ISO14001認定取得企業)の行う事業でしょうか?

 新宿区の敗訴は現実となり、何百年も経ていた樹木の多くが伐採され、たぬきをはじめとする動植物は生活圏を狭められてしまいました。そのあげく、なんの利用価値のない未完成の違法建築物が、すでに1年以上も野ざらしのまま放置されています。業者は住民説明会で、「もし、新宿区が敗訴した場合は解体するのか?」、「なぜ、既存樹木を残す設計にしないのか?」という質問に対し、「われわれはリスクを承知で開発をする。もし、敗訴であれば、壊すしかありません。出来るだけ有効に土地を利用する(樹木を伐採してより大きく建設する)ことは、その土地に対する礼儀である」と、住民の声を徹底無視する態度を取りつづけてきました。

 建設業者は 5年前、土地取得に関して8,500万円の「損失」を、区や住民の要望を無視して1億円9,000万円の「利益」(利ザヤ)に変えようと固執したため、裁判が決着した現在、結果的には何億円もの損失をこうむる可能性が出てきてしまいました。

 86,000万円(業者購入額)77,500万円(区+基金合計)8,500万円(当初損失額)

 当時、業者が土地譲渡に関して誠意ある対応を区や住民側に示していれば、8,500万円の差はさらに縮まった可能性もありました。このような経緯を改めて振り返ってみると、この建設業者ははたして本当に「被害者」なのでしょうか?

 “たぬきの森”のケーススタディには、行政や経済、環境、金融、地域・町づくりなど、さまざまな視点や論点が含まれていると思われ、さらに波紋は大きく広がりつづけています。みなさまは、どのようにお考えになるでしょうか。

 

 

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