日暮里富士見坂にみる広域景観保全という視座 先日、「日暮里富士見坂を守る会」のみなさまから「下落合みどりトラスト基金」あてに、たくさんの署名をいただきました。ほんとうにありがとうございました。 「日暮里富士見坂を守る会」は、山手線・西日暮里駅の南にある富士見坂から見える富士山の景観を守ろうと、13年前の2001年(平成13)から活動をスタートしている荒川区と文京区とにまたがった地元のグループです。都内で「富士見坂」と名づけられた坂道で唯一、日暮里の富士見坂だけが実際に富士山を眺望できる景観を保ってきました。2004年(平成16)には、国土交通省により「関東の富士見100景」にも選定されています。 ところが、文京区千駄木の不忍通り沿いに高層マンションが建設される計画が持ちあがり、都内でただ1ヶ所だけ残った富士山の見える坂道の風情を守ろうと、「日暮里富士見坂を守る会」ではさまざまな活動や各方面への働きかけをつづけてこられました。その経緯は、新聞やTVのニュースでご存じの方も多いと思います。詳細は、同会が運営する「富士見坂通信」サイトClick!をご参照ください。 しかし、不忍通り沿いの計画マンションは建築上の「違法性」がないため、ついに今年になってマンションが竣工し、富士見坂からの富士山の眺望は完全に遮られてしまいました。同坂からの富士山を見るため、東京じゅうから谷中散策のコースとして数多くの人たちが訪れていた名所だけに、かけがえのない眺望が失われたことは地元の方たちのみならず、多くの都民に失望感や喪失感を与えています。 現在では、「日暮里富士見坂を守る会」を中心に50年後の眺望復活へ向けた地元の方々の取り組みがスタートしています。また、同会では、文京区の不忍通り沿いのマンション計画に限らず、富士見坂から富士山へ向けた眺望ライン(ビスタライン)上に位置する自治体、すなわち台東区・豊島区・新宿区へ向けても、眺望・景観を損なうような高層ビル・マンションの建設を規制するよう呼びかけています。 2013年(平成13)6月に、荒川区の西川太一郎区長が呼びかけた、「都心部唯一の『富士見坂』の眺望を残すためのお願い」パンフレットから引用してみましょう。
「日暮里富士見坂を守る会」では、新宿区の中山弘子区長へ向けても、今年の6月に以下のような要望書を提出しています。同会のサイトから引用してみましょう。
日暮里富士見坂の景観へ配慮するよう、大久保3丁目に計画中の高層ビルの建築業者へは、たいへんすばやく通告を行なった新宿区のようですが、最高裁により明らかに違法と規定された“たぬきの森”で未完成の危険な違法建築に対し、建設業者へすばやく「撤去指導」「撤去命令」が出せなかったものかと、「トラスト基金」としましては返すがえすも残念でなりません。 日暮里富士見坂と同様に、都市の景観をテーマとする課題は都内のあちこちで見られます。下落合の“たぬきの森”の違法建築は、局所的に見れば法律や条例を異常なまでに拡大解釈した建築基準法違反Click!の1事例にすぎませんが、もう少し視野を拡げるならば、新宿区が落合地域全体に“網がけ”を行なっている、目白崖線のグリーンベルト保存をめざす「七つの都市の森」構想Click!に直結する課題であるのに気づきます。そして、これは新宿区ばかりでなく西隣りの中野区にある和田山(哲学堂公園)や、東隣りの豊島区にある学習院の森、さらに文京区の目白台から椿山(椿山荘)にまたがる目白崖線全体の緑地保存・景観保全へと結びつく、まさに「日暮里富士見坂を守る会」と同様に自治体の境界をまたがった、広域の景観テーマであることにも気づきます。 「下落合みどりトラスト基金」では、“たぬきの森”に無惨に放置された違法建築物の撤去と緑地公園化をめざすと同時に、より広い視野に立ち目白崖線沿いのグリーンベルト保全、あるいは復活へ向けた動きにも注目していきたいと考えています。 ■写真/図版 上:左手の黒いマンションに遮られ、今年に入って富士山が見えなくなった日暮里富士見坂。中上:「日暮里富士見坂を守る会」のパンフレット(左)と荒川区が作成した景観パンフレット(右)。中下:新宿区が推進する「七つの都市の森」の落合地域にみるグリーンベルト・緑地の復活構想。下:たぬきの森に建築途中で放置されたままの無惨な違法「重層長屋」(マンション)。 |
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