<下落合みどりトラスト基金 設立の経緯>
平成16年11月下旬に新宿区下落合4丁目の570坪の土地が遺産相続のため開発業者が取得し、重層長屋計画の住民説明会が開かれたのがこの問題のきっかけでした。周辺住民はすぐに新宿区に対しこの土地のみどりの重要性を訴え、みどりを守る陳情書を区議会に提出。新宿区区議会は超党派でこの陳情書を採択、業者に住民との話し合いを重視するよう要望しました。
同年12月、住民は新宿区長と直接面談し、屋敷森の保存を訴えましたが、時を同じくして新宿区から業者に対する安全認定が下されてしまい、その時点では区は我々に財政難を理由に買い入れは困難との見解を示しました。ところが、近隣の篤志家が区長との面談前に購入資金用に2億円の寄付をする申し出があったことが判明し、これをもとに平成17年2月6日、「下落合みどりトラスト基金」が正式に設立されました。
これは従来型の行政に全面的に頼った運動ではなく、住民で集めた基金を新宿区に寄付することにより、公園化を実現させようという画期的なものだったのです。
<新宿区の対応>
当初、買い入れには前向きでなかった新宿区も、庭園や日本家屋の専門家の評価や請願書、基金額の増加にともない、購入を検討しました。しかし、この土地の区の評価は5億4000万円とかなり低いもので、トラスト基金の2億3500万円を加えても業者の要求する10億5000万円とは大きな隔たりがありました。区長はこの評価額の5億4000万円を用意し、下落合みどりトラスト基金額と合わせて業者と交渉を行いましたが、業者は要求額を減額することは一切なく、現在に至っています。
<審査請求と裁判>
本事業がなかなか進まない理由の一つに、土地の形状、立地という大きな問題があります。この土地の最大の特徴は、入り口が4mしかなく、隣接する木造家屋に沿う小道が30m以上続くいわゆる『旗竿状敷地』で、周囲も崖に囲まれていることです。もし、ここで火災が発生すれば幅僅か4mの道に緊急車両と避難が集中し、近隣の住宅にも火災がおよび、大惨事を招く危険が大です。
法的にマンションの建設が不可能のため、業者は各戸に出口のある重層長屋という方法で、マンションに酷似した建物を敷地いっぱいに建てる計画を立てました。それでも東京都建築安全条例第4条では接道部分は本来幅8m以上が必要です。しかし、新宿区は『この規定は、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては、適用しない。』という第4条3項のいわゆる特例を適応し、規定の半分である4mしか接道がないにも関わらず処分認定(特例安全認定)を出しました。近隣住民はこの特例安全認定に対し、平成17年1月に審査請求を行いましたが、新宿区建築審査会はこの認定には処分性はないとの理由で却下しました。本件については住民側より東京地裁に提訴、目下係争中です。さらに本年1月に業者から提出された緑化計画書は、安全条例認定時のものとは大きく変化しており、業者が現在申請している建築確認とともに、提訴の対象として考えています。
<下落合みどりトラスト基金の立場>
当基金は設置規則にありますように、その目的は下落合地区のみどりを保全し、区と協力して公園化をはかることにあり、公園化の可能性が消滅した場合には全額、寄付者にお返しすることになっております。
当事務局では節目ごとに基金の継続をご通知し、希望者には返却する旨お知らせしておりますが、現在まで返却希望者はおられず、これは皆様がトラストの運動を継続支持してくださっている証として勇気付けられております。
業者は建築確認を待たずに樹木の伐採と整地を強行するものと思われますが、住民側が裁判に勝訴すれば、建築中であろうともこれにストップをかけることが可能であり、トラストとしては、たとえ樹木の大半が伐採される事態に至ろうとも裁判の結果をまって公園化につなげるべく活動を続けようと決意しています。
|