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東京湾のグリーンベルト葛西臨海公園の危機

 

7年後に開催が予定されている東京オリンピック2020で、東京湾沿いの臨海地域にグリーンベルトを形成している葛西臨海公園の3分の1をつぶして、オリンピックのカヌー競技場を建設しようとする計画が浮上しています。日本野鳥の会Click!では、オリンピックの東京開催が決定する以前から、この予定計画に異議を唱えつづけてきました。同会が推進する、東京湾の緑地保全を求める活動Webサイト「環境保全と両立するオリンピックの開催を求めて」Click!から、少し長いですが引用してみましょう。

 

 東京都の東端、千葉県との県境に位置する葛西臨海公園は、東京湾に面した広大な敷地を誇り、年間を通じて数・種類ともに、東京で最も多くの野鳥に会うことができます。/食物連鎖の上位に位置する野鳥の数や種類が多いということは、自然が豊かであるなによりの証拠です。また、渡り鳥にとって重要な繁殖地・中継地・越冬地のすべての要素を持ちあわせており、「自然環境のバロメーター」としても機能していると思います。/東京湾の干潟や浅瀬は、江戸時代以降の埋め立てによって、その約9割が失われてしまいましたが、当地の海辺では、浅海域、潮間帯、干潟、アシ原、氾濫原、草原、樹林帯が連続しています。このように連続性が残る環境は大変貴重で、環境省の「日本の重要湿地500」にも選定されています。(中略)

この貴重な場所に、東京都は2020年に開催されるオリンピックの東京招致計画において、カヌー・スラロームの競技場を建設しようとしています。もしそうなれば、貴重な緑地の約3分の1が失われることになります。東京支部はオリンピックの招致自体に反対するものではありませんが、このような大きな自然破壊を看過するわけにはいきません。/そこで、8月23日、招致委員会理事長と東京都知事あてに、「都立葛西臨海公園での2020年東京オリンピックカヌー競技場建設の変更についての要望書」を、財団事務局との連名で提出しました。(中略)

葛西臨海公園の年間来場者は、320万人(平成23年)にもおよびます。市民が気軽に訪れて、自然にふれることのできる憩いの場としての役割も担ってます。/原生の自然ではなく造成された場所ではありますが、開園から24年を経過し、土壌も植生も豊かになり、多様な生態系が形成されています。226種の野鳥のほか、昆虫140種、クモ80種、樹木91種、野草132種を記録しています。そのなかには、トラツグミ、チョウトンボ、コガネグモ、ウラギクなど東京都23区では絶滅危惧種に指定されている生物26種も含まれています。/もし計画通りに進めば、2017年には着工となります。競技場建設により都内屈指の豊かな自然環境が破壊されることは、生物多様性を保全するという我が国の国家目標に反することにもなります。/近接した中央防波堤埋立地などには広大な未利用地が存在し、より競技場建設に適した候補地が存在しています。/環境負荷がより少ない場所に変更するよう、今後も東京都と招致委員会に対し、積極的に働きかけていきます。

 

 日本野鳥の会は、オオタカをはじめとする鳥類や昆虫類、そしてそれらの動物が棲息するのに適した生態系をささえる自然環境を破壊しないよう、東京都に対して訴えています。これは、同会の視座からこの問題をとらえたアピールであり、また同公園の周辺に暮らす多くのみなさんの意向でもあるのでしょうが、もうひとつ、ここには大きなテーマが付随していると思います。それは、都市におけるヒートアイランド現象、すなわち夏季における都市の気温上昇に歯止めをかけるというテーマです。東京湾岸沿いに森の濃いグリーンベルトが形成されれば、どれだけ市街地の気温が下がるかは不明ですが、少なくとも南風が市街地へと吹きこむ夏季には、多少の効果があるのではないかと想定できます。

たとえば、新宿区における夏季のケースをみますと、区内で比較的みどりが多い落合地域と、新宿駅周辺のオフィス街あるいは商業地とでは、明らかに23℃の気温差があります。熱中症により、全国で1万人以上が病院へ搬送されるというような異常事態を見るにつけ、都市部において気温を低下させるもっとも有効な手段としての樹木の育成と森林の確保は、気温上昇を抑える意味からも都市計画では優先されるべき課題のひとつだと思われます。葛西臨海公園の3分の1が消滅することにより、周辺地域ひいては南風が吹きこむ東京市街地にどれほどの影響があるのかは不明ですが、現状の競技場計画はヒートアイランド現象の抑制へ向けた施策とは、まったく正反対の姿勢といわざるをえません。

2016年招致計画時のカヌー競技場イメージ 建設予定地

「下落合みどりトラスト基金」では、新宿区をはじめ目白崖線沿いに残るみどりが、その周辺の市街地を含めて夏季の気温上昇に歯止めをかけているのと同様に、東京の森林やグリーンベルトを少しでも保全あるいは回復させることが、年とともに深刻さを増すヒートアイランド現象に対するもっとも有効な施策であると考えます。もちろん、そこに形成された生態系を基盤に棲息している、動植物が貴重であることはいうまでもありません。

日本野鳥の会では、東京湾岸の緑地を守り葛西臨海公園のみどりを破壊しないよう、「環境保全と両立するオリンピックの開催 のため、葛西臨海公園のカヌー競技会場計画の見直しを!」の署名運動Click!を展開しています。同会の趣旨に賛同される方は、ぜひ署名に参加していただければ幸いです。

 

■写真/イラスト図版:「日本野鳥の会」の「環境保全と両立するオリンピックの開催を求めて」Webサイトより。

 

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