トップページ

“たぬきの森”の被害者は誰か?

 

  “たぬきの森”周辺にお住まいのみなさまからの情報によりますと、2009(平成21)3 23日付けで、新日本建設株式会社が本裁判に送付した「補助参加申出書」が、最高裁判所より届いたとのことです。新日本建設は、当裁判の判決により多大な利害関係が生じるため、補助参加を申し出たようです。高裁につづき最高裁の判決で、新宿区の「建築確認」取り消しが確定した場合、建設中の「重層長屋」は最終的に違法建築と規定されます。

  高裁判決では、「重層長屋」を敷地の境界ギリギリまで建設したことが災害時の延焼要因となる怖れがあり、近隣住民の生命や財産を脅かしているという内容で、4mの進入路自体や消防用スペースの問題についても、「平常時の通行のみならず、災害時における避難、消火活動および救援活動に支障がない状況にあると判断することは、明らかに合理的根拠をかくもの」と指摘されています。したがって、建物の一部を削るなどその場しのぎで場当たり的な対策は、その位置や構造などから事実上不可能であり、取り壊しになる可能性が大きいと思われます。

 

  土地の取得、および建設に費やした多大な損失が生じるため、新日本建設が一連の事件における最大の「被害者」である・・・との見方があります。しかし、新宿区が「特例」認定を行ったとはいえ、当時、東京都のほとんどの自治体の見解が、“たぬきの森”ケースを違法建築だとみなしていたことは、「下落合みどりトラスト基金」が行なったアンケート調査Click!でも明らかです。

 

  新宿区建築課が、区長と住民代表との“たぬきの森”をめぐる会合予定を知りながら、数時間前に無理やり出した違法な「特例」認定を皮切りに、引きつづき各種メディアによってその違法性が大きくクローズアップされ、新宿区建築審査会や裁判では審議延長、無責任な判断停止、「原告不適格」の門前払い、内容にまったく触れない「建前」論などに終始し、危機感を抱いた新宿消防署からは初の「意見書」が提出されるなど、まさに事件は異例づくめの展開で推移してきました。しかし、これだけ危険性や違法性、疑義などが指摘されてきているにもかかわらず、新日本建設は司法の判断を待たず、また地元住民の声をすべて無視して建築を強行してしまいました。

  お隣りの中野区でも、建築審査会で「建築確認」が取り消されるケース Click!が発生し、すでに建設を始めていたマンションが取り壊されました。また、姉歯建築士の偽装問題などを端緒として、世論は違法建築や脱法行為へ敏感になっていきました。事実、新日本建設も「特例」認定が出てから、建築審査会の結果が出るまで「建築確認」を行わず、2年半も建設工事の開始を遅らせ、他社への土地売却(説明会で事実を容認)を検討するなど、“たぬきの森”の「重層長屋」建設に違法性のリスクがともなうのを認識していたのは明らかです。業者は、多大なリスクがつきまとうのを承知のうえで、強引に建設工事をスタートしています。住民への説明会においても、違法性のリスクを抱えて建築することを認め、判決の結果「建築確認」が取り消された場合には、建築中の建物を取り壊すとさえ明言しています。

 

  “たぬきの森”は、10社以上の開発業者が土地取得を見送った経緯からもわかるように、多くの専門家が「法的に大規模開発はムリだ」と判断していた敷地です。また、このような経緯のある土地だからこそ、業者はかなり安価で土地を購入でき、法律規制の3倍もの面積を有する「重層長屋」を建設して膨大な利益を上げようともくろんでいたわけで、その“賭け”ともいうべきリスクは当初から業者自身も十分に承知していたはずです。

 

  説明会で、ある住民が「この土地に見合った、森のみどりを活かした建物を建てれば、みんな反対せず納得するのに」との声に、業者側は「その土地で、最大限の利潤を生むのが土地に対する礼儀である」との回答をし、会場を唖然とさせたことがありました。利潤のみを追求する企業の“一般論”としては、しごく「当然」の発言のように聞こえますが、誰に対して説明会を実施しているのかという、基本的な場所がらさえわきまえられない対応の稚拙さと、その視点に開発先である(地元の)人間や自然がまったく存在していないこと、地域()のコミュニティなど眼中にない傲岸不遜で精神的にも貧困な言動こそが、最大の問題なのです。

 

  “たぬきの森”は、人が誰も住んでいない原野を開発するわけではありません。営々と歴史が築かれ、人々の想いがこもり、自然が息づいている土地に手をつけようとしたのです。建築は文化であり芸術だ・・・ということが言われますが、この業者の行なってきたことは人間性や自然の尊重はもちろん、文化やモラルなどを重視する観点からはほど遠く、あらかじめ地元の周辺地域に在住している人々さえまったく無視した、実に空疎で傲慢な姿勢に終始してきました。また、新日本建設の代表取締役社長あてに、全国からの署名や「トラスト基金」の募金額と新宿区が用意した公園化予算を提示し、再三にわたり売却要請をしたにもかかわらず、下落合の住民や「トラスト基金」、さらには買い取りを表明している新宿区にさえ連絡しようとせず、土地を他社へ転売しようとしたり、区への売却価格を3,000万円も取り違える Click!など、地元住民や自治体の意向を無視し冒瀆しつづけた数々の行為は、決して許されるものではありません。

  それまで平穏に暮らしてきた近隣住民のみなさんは、この間、自然保護と自らの生命の危機を訴え、新宿区に5年間にもおよぶ働きかけや建築審査請求、さらに裁判を通じて多くの時間を費やし、必要な経費を捻出してきました。その過程では、1月の高裁判決さえ見ることなく、道半ばで逝去された方もいらっしゃいます。この先、最高裁で新宿区敗訴の判決が下りれば、敷地(570)は建設可能面積が3,000m2未満から、一気に従来の1,000m2未満の評価となり、不況も反映して相当な地価の下落が予想されます。以降、“たぬきの森”は新宿区と業者の争いの場となり、用途や買い手も決まらないまま、建築中の残骸が何年にもわたり放置されるのでしょうか?

 

  もし建築中のまま放置されつづければ、無人の建設現場が今度は犯罪の温床になるかもしれない・・・と、近隣住民のみなさんの不安は募るばかりです。新宿区が、“たぬきの森”に対し「建築確認」を行なってしまった誤謬は、確かに取り返しのつかない大きな過誤ですが、それによって違法性のリスクがきわめて高いとあらかじめ認識したうえで、また周辺住民の声にいっさい耳を貸さずに建築をスタートした業者は、ほんとうに被害者といえるのでしょうか?

 

  新日本建設は、今こそ周辺住民の生命を尊重し、その声へ謙虚に耳を傾け、たぬきをはじめ貴重な動植物の生活圏を次世代まで残すために日本全国から寄せられたみなさまの意志をも受け入れて、新宿区への売却を本気で検討するべき段階にきているのではないでしょうか? 下落合に暮らす人々の生命や財産、地域()の声、歴史、文化、自然などを無視しつづけたツケが、これ以上まわってこないうちに・・・。すでに発生している、そしてこれからより多く発生するであろう、新日本建設に対する世間の風評を考慮すれば、“たぬきの森”を新宿区へ売却することは、もはや株主たちに非難される決断だとは思えません。みなさまは、いかがお考えでしょうか?

 

Copyright © 2005-2009 Shimoochiai Midori Trust. All rights reserved.