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未完成「重層長屋」の取り壊しか最高裁への上告か

 

 先ほど、建設現場の近況をお伝えした中でも触れましたが、新宿区の最高裁への上告期限が迫ってきました。もし、このまま新宿区が上告しなかった場合、建設中の「重層長屋」は違法建築と規定され、早々に取り壊すしかないことになります。建設工事の「説明会」で、たびたび参加した住民に罵声を浴びせていた業者も、「われわれは、リスクを背負って建築に踏み切った。もし新宿区が敗訴すれば、われわれは取り壊すしかありません」(議事録より)と、明言していました。

 

 一方、新宿区が最高裁へ上告した場合、今後の建設工事がどうなるかは、いまだまったく不明の状態です。工事が中断されている現状が、最高裁の判決日までそのままつづくのでしょうか? このような判例は、全国的に見てもきわめて稀少なケースで、これからの展開の予測がつきにくく予断を許しませんが、ひとたび課題の仔細な内容にまで踏み込んで出された高裁判決が、容易に覆ることは考えにくいと思われます。

建設中「重層長屋」の西側現状

 従来、建物の完成などを理由に住民側が最終的に逆転敗訴したケースでは、景観や高さ制限などがメインテーマであり、周辺住民の生命や財産に直接関わる安全性をテーマとしたものではありませんでした。有名な国立市における判例も景観条例が争点のコアであり、直接生命の危険性とは関係がありませんでした。しかし、“たぬきの森”ケースは、建物とその敷地そのものに重大な危険性があり、ひとたび火災が起きれば居住者が逃げ遅れる可能性が高く、消火・避難活動の遅延により近隣への延焼が危惧されるという、既存の判例には見られない安全性を最優先した判決内容となっています。

 

 さらに新宿区消防署も、署が開設されて以来の「意見書」を提出するほど、近隣の道路状況がスムーズな消火活動を妨げかねない劣悪な環境であり、高裁の判決文ではそのような道路状況にまで踏みこんで詳細に記述した、まさに安全第一を趣旨とする内容となっています。もし万が一、新宿区が上告して高裁判決が最高裁で覆ったとしても、消防署が立地の危険性を強く訴え、高裁で「危険な住宅」の“お墨付き”が出てしまった建物に、たいせつな家族や貴重な財産を移そうと考える人は、おそらく皆無に近いのではないでしょうか?

 

 業者による住民「説明会」で、そのつど作成された議事録にもあるとおり、業者は当初から「建築確認」や「特例」認定処分が取り消されるリスクを怖れ、建築開始を何年も遅延しつづけ、その後は取り壊しのリスクを強く意識しながら建設をつづけてきました。今回の「建築確認」取り消し判決は、そのような意味からも高さ制限や前面道路、周囲の景観といった建築基準法や各種条例の違反テーマとは、本質的に異なることがわかります。

 

 過去に行なわれた2回の新宿区建築審査会、また4回にわたる裁判では、いずれも安全性をめぐる核心的な課題への言及は全的に避けられており、今回の高裁判決が初めて裁判のテーマ内容に直接踏み込んだものとなっています。そして、一度出された高裁判決が、万が一最高裁で覆ることにでもなれば、その後に大きな混乱が予想されます。したがって、最高裁では安全性を第一に考慮した高裁判決を、そのまま順当に支持するものと思われます。

 

 新宿区は、安全をまったく担保できないこのような危険性の高い建物へ、100名もの人間を居住させるのを、そのまま許容しつづけるつもりでしょうか? 新宿区建築課が、区長に隠蔽してまで許可してしまった「特例」認定に端を発したこの問題に、これ以上、新宿区民の血税を費やすムダな裁判をつづけるのは止めにしませんか? そして、新宿区建築審査会の二度にわたる取り返しのつかない「逃避」審査の判断から、建設費がかさみつづけている工事をいち早く中止させることこそが、何年にもわたり苦しみに耐えてきた近隣住民、新宿区の全納税者、不安な建設業者、そして自然に生きる動植物に対しての、心ある誠意だと考えます。

 

 わたしたちは、いまならまだ十分に引き返せる地点にいます。

 

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