4回 本件認定処分の違法性
@本件安全認定処分(乙1号)は、安全条例4条1項・3項の法律要件に違反する。
A4条3項の法律要件該当性について、法適合性の主張立証責任は、新宿区長にある(建築基準法6条1項4項、行政手続法5条8条)。本件安全認定処分の違法性については、訴状及び準備書面に詳述したとおりであるが、以下のとおり、補足する。
B甲42号 本件敷地の鳥瞰図である。北側は40mに及ぶ路地状敷地に接続。南西側は延長40m以上にも及ぶ最高高低差5m以上、60度を超える傾斜崖(がけ状敷地)である。
C甲43号 建築主作成の本件敷地図面。
D甲44号(敷地図) 本件敷地は黄線で囲んだ部分、その赤色部分は路地状敷地、その黒色部分はがけ地部分(がけ状敷地)。まさに袋の鼠となるしかない敷地状況。
E甲28号証の@ないしQ 本件敷地南西側(がけ側)の境界の現況写真。
F甲45号の@ないしQ 本件敷地南西側(がけ側)の既存擁壁の現況写真。
G甲10号 安全条例2条ないし6条解説
3条 路地状敷地の形態
4条 建築物の敷地と道路との関係
5条 長屋の主要な出入口と道路との関係
6条 がけ
H甲46号 建設省告示1831(非常用進入口の技術基準)
第1 延長40mにも及ぶ路地状敷地と接道状況(法不適合)
@本件建築計画の敷地は30戸におよぶ集合住宅を建築する土地でありながら狭小な部分でのみ公道に接道している路地状敷地である。
敷地面積1,871.12u、計画延べ床面積2.823.09u、住戸数30の集合住宅という大規模建築の敷地が接道部分4.19mの長さで接道しているにすぎない。しかも接する道路は現況幅員2.79mときわめて狭隘である。
A路地状敷地は、敷地の一部分が細い路地状部分のみによって一方向の道路に接するものであり、路地状部分の幅員(安全条例3条では路地状部分の長さと建築物の規模により幅員が規定されている。甲10)の長さでしか有効な接道長さは確保できない。
路地状敷地については、道路への避難、消火及び救援活動そして二方向避難の確保など安全上、防火上の観点から、建築物の敷地として危険性があり、安全確保のため必要な制限が付加されている。
B而して、本件建築計画においては、この路地状部分の接道長さについては、建築基準法43条(接道義務)の制限を付加強化した安全条例4条による8m以上の接道義務の規定に法適合していない。そして、新宿区長は右法不適合を認めている(乙1号)
Cしかるに、新宿区長は条例4条3項規定の安全認定をおこない接道義務の制限を適用しないとした。この適用しないとする特例認定の主張立証責任は、新宿区長にある(建築法6条1項4項、行政手続法5条8条)。
本件認定によると(乙1)、40m近くにおよぶ路地状部分を道路状空地と称し、緊急時の車両の通行および住民の避難経路として機能させ、計画建物と隣地境界線の間に2〜2.5m以上の有効幅員の安全空地を設け避難経路として道路状空地に接続させ、かつ、この安全空地には通行の障害となる建築物、工作物を設けない上に、通行の障害となる植栽、樹木は伐採、移植する旨の条件を課して、本件認定した(乙1号)。
しかし、安全条例4条3項の規定は敷地の形状(路地状敷地・がけ状敷地、甲42・44)、建築物の構造、規模に配慮するほか、敷地内において広い空地を設けた場合の状況や、敷地外の土地の状況、敷地周囲の市街地の密集の度合いや、都市計画等で道路整備の状況などを総合的に検証判断して、認定されるべきものである(甲10号3条4条解説)。
D本件建築計画において、敷地の形状は幅4m長さ40mにおよぶ路地状部分が鶴首のような路地状敷地である(甲43・44号敷地図)。安全空地と称する建築物の周囲の空地は、甲27号図面のとおり隣地境界線との距離が2〜2.5mしかなく、東側ではみどりの条例による既存樹木や新規植栽の緑化スペースになっており(避難経路確保のためには伐採、移植するとする安全認定と整合しない、甲26)、南側や西側は高さ5m以上のガケや急傾斜地であり、既存のコンクリート擁壁や石積み擁壁になっている(甲45号現況写真)。隣地境界線から2mの部分はほぼガケか急傾斜であって避難経路として有効な空地にはなり得ない状況である(甲28号現況写真)。
Eまた、敷地外の土地の状況は、敷地に接して避難や消火、救助活動のために有効な公園、広場や河川、神社、寺等は存在しない(甲5号付近写真・甲44号)。東側と東南側は既存のマンションが建ち、本件敷地側はドライエリアになっている。南側と西側は高いガケや急斜面であり避難をしたり消火、救助活動できる地形の状況ではない。その他敷地の周囲は長左40m近くにおよぶ路地状部分の両側もふくめて明治時代建築の建物(●●邸、甲44号)を含む木造家屋や付属建物が境界線に接近して建並び、隣地への避難は困難であるばかりではなく延焼の危険は必至である(甲11・甲15鑑定意見書)。40m近くにおよぶ路地状部分では、隣地で火災が発生した場合に計画建物の住民は公道への避難経路は遮断され、二方向避難どころか、まさに『袋の鼠』となるしかない敷地状況である(甲43・44号鳥瞰図・敷地図)。
Fそして、敷地周囲の市街地の状況は、自動車の対面通行が不可能な狭隘な道路が入り組んだ街区に戸建住宅や共同住宅が密集しており(甲5・44)、東京都の地域危険度想定では危険度が2番目にランクされていて火災の延焼危険度、避難危険度が極めて高い地域になっている(甲11号別添資料)。
G以上のとおり、本件建築計画の敷地の状況について建築基準法(安全条例)に基づき総合的に判断すると、敷地の内部に道路状空地や安全空地等を設けただけで路地状敷地とがけ状敷地から袋の鼠となるしかない敷地状況(甲44号敷地図)の危険性が解消し、建築基準法(安全条例)で規定している接道義務を満たさなくても『安全上支障がない』との認定は明らかに誤りと言わざるを得ない。その法適合性については、新宿区長に主張立証責任がある。
第2 道路位置指定の法不適合
@土地を建築物の敷地として利用し接道義務を満たすため、新しく道路を築造しようとする場合、建築基準法42条1項5号に規定する道路位置の指定を受ける必要がある。
道路指定の基準(建築基準法施行令144条の4)によると、本件建築計画地のような幅4m長さ40m近くにおよぶ路地状部分は袋路状道路(その一端のみが他の道路に接続したもの)となり、幅員4mでは延長35m以下に制限されている。
A本件の場合のように延長が35mを超える場合は、終端が公園、広場等に接続しているか、35m以内ごとに基準に適合する自動車の回転広場を設けなければならない。そのほかこれらに準ずる場合は周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認められなければならない。その上、道路と接続する交差部角地には辺2mのスミ切りを設けなければならず、本件の場合、隣地の買収なくしてこのスミ切りの設置は不可能である(甲44号敷地図)。
B以上のように、本件建築計画においては8m以上の接道義務を満たすために幅4m長さ40m近くにおよぶ路地状部分について道路位置の指定をうけることは極めて困難である。たとえ自動車の回転広場等を設けて道路位置の指定を受けたとしても、それらの部分は敷地面積から除外されることとなり、本件建築計画の建築物の規模は大きく縮小したものにならざるを得ない。
第3「二方向避難は確保されない」
本件認定は二方向避難の確保を条件として認定しているが、以下のとおり、その確保は不可能である。もとより、その確保の主張立証責任は新宿区長にある。
@建築物でも建築物の敷地についても、地震や火災などの緊急時における二方向避難は安全確保の基本である。
建築物には用途や規模により2以上の避難のための階段の設置を義務付けられており、階段が1ヶ所の場合でも避難バルコニーや窓先空地および避難に有効な非常用進入口を設けるなどの規定が基準法や条例で定められている。これは緊急時の避難において二方向避難の確保を重要視している法規定である。建築基準法35条、施行令121条126条の6・7、建設省告示1831(甲46)、安全条例19条ロ参照。
A建築物から屋外に避難した後に、最終的に建築物の敷地から道路または公園、広場など敷地外への二方向避難の確保はより重要である。
接道する道路が1道路であっても接道長さが充分な敷地であれば道路への二方向避難の確保は可能であり、そのため接道長さが条例で規定されているのである。
Bしかるに、本件建築計画地のような路地状敷地では道路への二方向避難の確保は不可能である。この場合、敷地周囲への避難経路が求められるが、前述のとおり本件建築計画地において隣地はガケや急斜面であり(甲28・42・44・45号)、その可能性は極めて困難な状況である。
C本件安全認定(乙1)では建物周囲の安全空地(避難経路としての有効性は疑問がある)を設けることによって二方向避難が確保されているとみなしているが、この安全空地は同一敷地内の路地状部分に接続しているだけである(甲44号敷地図)。長さ40m近くにおよぶ路地状部分により一方向避難経路として狭い接道部分で敷地外の現況幅員2.79mの極めて狭隘な道路に最終避難できるのみで(甲5・44)、二方向避難は確保されていない。
第4 延長40m以上のがけ状敷地と既存擁壁の危険性(甲28・45号現況写真参照)
@本件建築計画地の南西側は延長40m以上にも及ぶ60度を超す急傾斜地がけ状敷地になっており、東南側隣地部分は5m以上の高低差があるガケである。
現状は既存のコンクリート擁壁の上部にコンクリートブロック積造の石垣が三段も設けられている(甲45号の3・4、甲28号の1ないし3写真)。コンクリート擁壁は高さ2〜3m程あって水抜き穴もなく(安6条4項、甲10号)、ひび割れもみられ構造耐力上の支障は極めて高い状況である。基礎部分は隣地の民有地に越境して築造されていると思われる。
Aこのコンクリート擁壁は、西側へ30mほど連続しており中間でカギ状に折れ曲がっている。●●邸家屋の隣接部ではかなり目立つひび割れが数多く発生し(甲45号の10・11、甲28号の13・14写真)、擁壁表面からの漏水現象も見られる。この部分の擁壁は築造後50年以上経過していて、経年劣化のためと思われ、構造耐力上の支障は極めて高い状況である。
B南西側から西側の●●邸までの隣地境界は古い石積のガケが複雑な曲線となり続いている(甲45号の17・18写真)。高さは2mを超える部分もあり、石垣の上部や間からは多くの樹木が絡み合い、積み石がズレたりした箇所も見受けられ、工事の少しの振動などで崩落の危険性が極めて高い状況である。
C本件建築計画の安全条例4条3項の安全認定では、隣地境界線と建築物との間に避難経路として有効幅員2〜2.5m以上の空地を設けるとしているが、南側や西側のガケ、急傾斜、擁壁そして崩落の危険がある石垣が存在する敷地周囲の状況を見れば、境界線からの距離2mでは避難経路として有効な安全空地の確保は不可能なことは明白である。この2mのほとんどの部分がガケ、擁壁、石垣上部になっているからである。
安全認定において、かかる南西側のがけ地とその周囲の状況を確認しないで本件認定処分をした重大な疑いがある。もとより、本件がけと擁壁(がけ状敷地)の危険性及びその周囲の安全性の確認は新宿区長に主張立証責任がある。
D安全条例6条には2mをこえるガケの下端から水平距離がガケ高の2倍以内に建築又は敷地造成する場合に擁壁設置の規定がある(甲10号6条)。本件のような構造耐力に支障がある古い既存の擁壁や崩落の危険性が高い石垣が存在する現状において、新たな擁壁を築造しようとすれば隣地に対する安全確保や隣地地権者の理解、協力が不可欠であり、それなくして実現困難と思われる。敷地周囲の隣地への影響も少なく、避難経路としての安全空地も有効に確保できるためには、ガケ高さの2倍以上つまり5〜10mの距離を隣地境界線から離して余裕のある敷地内スペースを設けた建築計画でなければならない。
E安全条例4条3項は、建築敷地内だけでなく、その「周囲の状況」を防火上、避難上、消火上、救助活動上迅速かつ適切に行えるかについて総合的に判断して、安全上支障がないと認めた場合に、例外的に適用されるものである。もとより、同例外適用の合法性については、新宿区長に主張立証責任がある。
イ 本件敷地南西側の延長40m以上にも及ぶ崖(最高高低差5m以上)の状況は、甲28・45号の現況写真@〜Qのとおりである。どうか、現地を実地にご視察いただきたい(現場検証申立)。もとより、本件認定の新宿区長は条例4条3項の安全認定において、上記がけ状敷地の状況を検証した上で4条3項の本件安全認定をする法律上の義務を負担している。その立証責任がある。
ロ 而して、崖の状況は上記の写真のとおりである。この現況において、本件がけ状敷地及びその周囲の状況の安全性を全く判断しないでした本件安全認定の違法性は明らかである。本件安全認定には前記の安全空地の条件は付されているが、崖の延長40m以上(最高高低差5m以上)に及ぶ本件がけ状敷地及びその周囲の安全性については、全く判断しないでした4条3項安全認定であることは、同認定書(乙1)の図面と付加された条件を見れば明らかである。
一見して、同認定書には本件がけ状敷地及びその周囲の安全性確認について全く条件は付されていない。安全確保条件が付されていないどころか、安全認定図面と記載の認定条件を見ると、本件敷地とその南西側周囲には上記本件がけ状敷地は全く存せず、境界南西側隣地とは運動場のようなフラットの地続きの敷地の建築計画となっており、それを前提とした安全認定になっている。すなわち、新宿区長は現地を検証しないで、本件安全認定を速断した重大な疑いがある。
ハ このまま、かかる延長40m以上60度を越える傾斜崖(がけ状敷地)の存在を無視して、本件建築工事が強行されれば大災害の惹起は必至と言わざるを得ない。
本件認定において、安全条例6条・建築基準法施行令142条の安全技術基準のクリアについて、現地検証に基づき詳細かつ慎重に4条3項の安全性確保が検証かつ立証されなければならない。
F以上、本件建築計画は本件敷地(路地状敷地とがけ状敷地から袋の鼠となるしかない敷地)とその周囲の状況を総合的に判断すれば、違法建築を免れず、かつ、本件認定処分は建築基準法及び安全条例に違反すること明らかである。
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