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泉麻人様の見学会エッセイが夕刊フジに登場

 

「下落合みどりトラスト基金」が行いました、2月末の旧・遠藤邸見学会におみえになりました泉麻人様が、夕刊フジ(329日)へ見学会の様子をエッセイで書いてくださいました。屋敷・屋敷森のご感想や見学会の様子などを、「泉麻人の通勤快毒」欄で書かれています。

 

泉様へサイト掲載のお願いをしましたところ、快諾いただけましたので全文をご紹介したいと思います。

 

泉麻人通勤快毒

 

素晴らしきお屋敷観光

ひと月ほど前のことになるが、新宿の下落合に住む方からお電話をいただいた。「高台の古い屋敷の跡に集合住宅を建設する話が進んでいて、周辺の住民の間で保存運動がもちあがっている…」とのこと。敷地には豊かな屋敷森が残っていて、タヌキも出現するらしい。見学会を開くというので、興味があったら参加してください、という話。

まるで縁のない土地だったらともかく、下落合は僕の生まれ育った町である。懐かしさも手伝って見学会に出向くことにした。

あたりは目白駅の西方に広がる崖地の一帯。すぐ近くには、僕が小学生の時代、ザリガニ採りに興じた「おとめ山」(自然公園)もある。当時何度も自転車で駈けおりた、ジェットコースターみたいな急坂の上に、件のお屋敷・E邸は存在していた。立派な腕木門の前に二十名ほどの参加者が集まっている。連絡をいただいたTさんの奥様(といってもまだ二十代くらい)に導かれて、門をくぐった。

庭径の傍らに、いかにもお宝が詰まってそうな屋敷蔵が見えて、奥方にぐるりとまわりこむと、日本庭園を見渡す格好で母屋が建っている。渋い黒灰色の瓦屋根をのせた、正に“山の手の日本屋敷”といった雰囲気である。

当日どういう経路で眺め歩いたか…細かいことまで覚えていないが、掘りごたつを設<しつら>えた茶の間、洋間にはシャレた暖炉があって、台所の隅の風呂場には古典的な五右衛門風呂が置かれていた。それから、縁側越しの庭隅には珍しい水琴窟<すいきんくつ>(音はしなかったが)、茶室を備えた別棟も並んでいる。

 

保存しておきたい上等な家

見晴らしのいい二階の間で、建築学者の解説が始まった。大正から昭和の初めにかけての建物と推定され、壁の漆喰の仕上げ、柱の材質、工夫を凝らした鴨居のデザイン…かなり手のこんだ上等な家に違いない、とのこと。

「前田さんのお屋敷の一つかもしれませんね」

前田さん、ってのがどこの前田さんなのか、当初よくわからなかったが、これはあの前田子爵のことらしい。現在の東大(本郷)をはじめとして、数々の場所に屋敷を持っていた前田子爵の家の一つ(ここに移築した)という可能性もあるようだ。

「私がここに越してきたときには、この家ありましたよ、震災のちょっと前…」

「いや、おばあちゃんがここ来たの昭和に入ってからでしょ…」

付近の古老が寄り集まって、覚束ない記憶をたよりに証言する場面が、ちょっとした歴史ドキュメントのようで面白かった。戦前は伊藤ナニガシというハヤリの講談師が住んでいた…とか、興味深いエピソードも聞いた。

さて、先の資料にもあったタヌキの話だが、確かにこの二階の廊下越しに前庭を眺めると、クスノキやエノキの大木が繁る。タヌキも居つきそうな林が広がっている。林の崖下には神田川沿いの低地と、彼方に西新宿の高層ビル群が見える。この家が建った当時は、おそらく水田地帯を見下ろすような、都心西郊の景勝地だったのだろう。

緑は無論、こういう場所が建物込みでそのまま保存できたら素晴らしい。ご興味がある方はネットで「下落合みどりトラスト」と検索すると関連サイトが眺められる。

 

 

 

 

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