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建築史研究者有志のみなさまからから中山新宿区長への公開請願書

 

関東地域に在住されます、建築史を研究される研究者有志のみなさまから、中山弘子新宿区長あてへの請願書がとどきました。ご了解を得て、本サイトで公開いたします。

 

 

2005318

新宿区区長 中山弘子殿

 

旧遠藤邸の保存・活用のお願い

 

              関東地域に在住する建築史研究者有志

文化女子大学教授  井上祐一

文化女子大学教授  内田青蔵

日本大学助教授  大川三雄

横浜国立大学助教授  大野 敏

東京家政学院大学助教授  大橋竜太

日本工業大学教授  黒津高行

工学院大学教授  後藤 治

法政大学助教授  高村雅彦

工学院大学教授  初田 亨

東海大学教授  生 修二

日本大学助教授  藤谷陽悦

関東学院大学教授  水沼淑子

東京都立大学助教授  山田幸正

 

★連絡先:東京都渋谷区代々木3221 文化女子大学造形学部 内田 青蔵

 

 貴新宿区下落合4917に現存する旧遠藤邸が、売却され取り壊しに直面していることを聞き及んでおります。しかしながら、旧遠藤邸は、戦前期の住宅建築と土蔵に加え庭園が一体となって現存している実例として極めて貴重な遺構であり、貴区の文化財的価値だけではなく東京都にとっても重要な歴史的建造物と考えられます。

 既にご承知とは存じますが、改めて旧遠藤邸についてその文化的価値に関する概要を述べたいと思います。旧遠藤邸は、下落合の高台に位置し、二階座敷からは周囲一帯から遠方までを見渡せる極めて眺望を意識した配画計画がなされています。また、建物周囲には庭が設けられ、その様相はかつての閑静なお屋敷町であったことを想起させてくれるもので、東京近郊の郊外の住宅地化という的観点から貴重な遺構といえます。

 腕木門をくぐって奥に進むと、手前に土蔵、その横に二階建ての瓦葺の主屋が並んで建てられています。土蔵の腰は洗い出し仕上げ、壁は黒漆喰仕上げで、丁寧な職人の仕事振りが窺えます。主屋の玄関は、カットガラスの組み込まれた両引きの玄関戸があり、その上には木太い部材に支えられたむくりのある入母屋屋根があります。この主屋玄関と土蔵の間には内玄関が設けられるなど、その正面の構成は戦前期の屋敷構えを伝えるものです。

 内部は、玄関脇には洋室の作り付けのベンチと暖炉のある応接室、南側には掘りごたつと調理用の炉の設けられた茶の間、その西側には当初の姿をとどめる五右衛門風呂と朝鮮張りの台所があります。また、玄関を挟んで東側には砕けた数奇屋風の座敷と南に離れ座敷が、二階には一階の座敷とは趣の異なる端正な書院風の座敷があります。このように、デザイン的にはさまざまな意匠が取り入れられており、大工が大いに腕を振るった様子が窺えます。これらの外観や内部の様子は、戦前期の住宅史ならびに技術史的観点から当時の様子を具体的に知ることができる貴重な遺構といえます。

なお、具体的な調査が行われていないために、その詳細は明らかではありませんが、わが国の大正から昭和初期の住宅建築の伝統回帰の傾向を反映した建物ともいえ、こうした多様な特徴や価値を明確にするためにも詳細な調査が必要と思われます。

 いずれにせよ、庭と一体となって現存する旧遠藤邸は、わが国戦前期の都市近郊に位置する邸宅建築の変容の過程を示す貴重な遺構といえ、生きた文化施設として将来に継承すべき文化的価値が認められます。つきましては、どうぞ、開発業者から買戻し、貴新宿区の貴重な文化財として保存・活用をお願いしたいと存じます。

 なお、保存・活用に際してわれわれがお手伝いできることがあれば、どうぞ、お申し付けくださいますよう申し添えさせていただきます。

 

  

 

 

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