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石川幹子様から中山新宿区長への公開要望書

 

慶應義塾大学環境情報学部教授であり、新宿区都市計画審議会委員でもいらっしゃいます石川幹子様より、中山新宿区長あての要望書が提出されました。ご本人のご了解を得て、本サイトで公開いたします。

 

 

200538

 

新宿区区長 中山弘子 殿

 

    下落合地区の緑の環境とE邸保存のための要望書

                             

慶應義塾大学環境情報学部教授

                                      石川幹子

 

新宿区都市計画審議会委員をつとめております慶應義塾大学の石川幹子です。このたび、下落合地区の良好な緑地環境を有するE邸の取り壊しと開発の動きが、急展開しております。

この間の新宿のまちづくり、都市計画マスタープラン、緑の基本計画などを踏まえ、将来の新宿区の財産として、下落合地区の緑の環境を保全していただきたく、意見書を添えて、要望いたします。

なお、私は、現在、ハーヴァード大学デザイン学部大学院客員教授としてアメリカ・ケンブリッジにおりますが、短時間ではありますが、急遽、帰国をし、現地を精査の上、重ねて御意見を申し上げる所存です。

地域の皆様のトラスト基金が、先日、中山区長に手渡されたと伺いました。この地の緑の環境は、新宿区のみならず、国際都市・東京の財産といえるものであり、保存に向けての確実な一歩を踏み出していただきたく、お願い申し上げます。

 

1.       下落合地区の住宅と一体となり形成されてきた緑地環境は、新宿区のみならず、東京を代表する文化的環境であり、速やかな保全に向けての方策をとっていただきたく要望いたします。

2.       新宿区のまちづくりの基本方針を示した「都市計画マスタープラン」、「緑の基本計画」においても、当該地域は、良好な住宅地と自然環境が一体となった地区として、持続的に維持していくことが明記されております。市民参加により策定された、上位計画の主旨にそって、確実な都市経営の実践を、要望いたします。

3.       財源につきましては、地元からのトラスト基金が、立ち上がっております。短期間に、このように多額の、しかも多くの市民の皆さんの協力により生み出された基金の事例は、寡聞にして、例を知りません。市民の皆様の熱意こそが、新宿区の財産です。「都市緑地法」にもとづく「都市林」、もしくは「緑地保全地区」とし、隣接する御留山公園、野鳥の森と結び、この地を、21世紀の「落合の森」を創り出していく礎石とされることを要望いたします。         

 

   下落合地区の住宅地と一体となった緑地環境に関する意見書

 

当該地区は、落合という地名が示すように神田川、妙正寺川が合流する位置にあり、武蔵野台地を刻んだ崖線(目白崖線)に沿って、大正年間には目白文化村がつくられ、良好な住宅地として発達してきました。

歴史的、文化的な核となっている薬王院の創建は、鎌倉時代に遡り、江戸期には、諏訪社、氷川社なども、広大な境内地を有していました。目白崖線には、かつて豊かな湧水が存在し、江戸期には、この湧水と地勢を生かし、多くの大名庭園が営まれていました。現在の甘泉園公園(徳川御三家清水家)、新江戸川公園(肥後熊本藩下屋敷)、芭蕉庵等は、その面影を今日に残すもので、下落合地区の環境は、このような江戸から東京に至る、歴史的・文化的な緑地軸に連なる、重要な位置を占めています。

明治以降の都市計画の経緯をひも解いてみますと、当該地域に隣接する野方地区には、昭和12年、良好な風致を有する地区として「風致地区」が導入されています(戦後、廃止)。続いて、昭和14年に策定された東京における最初の緑のマスタープランである「東京緑地計画では、善福寺池、妙正寺川、江古田川連続する緑地軸として位置づけられ、妙正寺川と江古田川が分岐する地点と合流点の双方に公園が計画されました。鷺宮と哲学堂公園です。鷺宮公園は、実現に至らず、江古田川も、流量のない都市水路となってしまいましたが、中野区におかれましては、国立療養所跡を江古田公園とし保全いたしました。また、神田川沿いには、和田公園をはじめ、大企業の保養施設の積極的誘致が行われ、井の頭池に連なる緑地軸が計画されました。そして、これらを環状に結んだものが、当該地区の骨格として計画されました。落合地区は、その結節点に位置します。

戦後の急速な都市化の中で、このような戦前の計画は、大きく挫折してきましたが、先人の意思を継承し、様ざまな緑地保全の努力が続けられてまいりました。近年の事例としては、杉並区において神田川沿いの興銀グランドの売却を阻止し、栢の宮公園としての整備が行われました。また、都市水路として消滅した桃井川の水源地の保全・公園化も行われています。隣接する豊島区においても、市民運動により「目白の森」が、保全されています。下落合地区においても、御留山公園、野鳥の森公園が、市民の協力により保全されてきました。

このように、当該地区の緑地環境の保全は、単体としての緑地のみならず、大きな地域全体の緑の骨格の中で判断されるべきもので、多くの先人たちのたゆみない努力の結晶が今日に継承されています。21世紀初頭における私たちの世代は、これを継承、発展させていく、義務と責任をおっていると考えます。

当該地域の緑地の植生、庭園の特色の詳細につきましては、大崎清見先生が、実査に基づいた提言をまとめておられます。この意見書とあわせて御参照いただき、「落合の森」として、21世紀の地球環境に貢献していく第一歩を踏み出していただきたく、お願い申し上げる次第です。

 

  

 

 

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