Chichiko Papalog 「気になるエトセトラ」オルタネイト・テイク

 

いまに活きる刀剣用語

  実はこの企画、下のオスガキが小学6年生のときに、夏休みの自由研究でやった課題だ。どうしてもやりたいことが見つからなかった彼は、家にある刀に目をつけた。なにか刀をテーマにして、斬新な面白い宿題ができないか?・・・ということで、現在も日常会話でつかわれている刀剣に関する言葉を調べることになった。

  さて、実際に観ながら勉強しないとわからないとのことで、危なかったけれど現物を見せたり、触らせたりしながら宿題は進んでいった。(これが目的だったかも)  調べはじめたら、意外に多くの言葉が見つかった。ここに挙げたものはほんの一部だと思うが、それでも知らずにつかっている方は多いのではないだろうか? ほかに、用語をご存知の方があれば、ぜひ教えていただきたい。

真剣勝負

これは、いまでもよくつかわれる言葉。精神的に緊張して、物事にマジメに取り組み、本気で勝負する場合などにつかわれている。

さすが(刺刀)

元来、相手を突き刺す鋭い短刀の意。転じて、なにか気のきいたことをして褒めたり賞賛したりするときに、「さすが○○○」というようになった。

「刺刀(さすが)

おっとり刀

漢字では「押取刀」と書く。急いで刀を手にすることを意味するが、転じて、大急ぎで取るものもとりあえずに・・・というような意味になった。

大げさ(袈裟)

剣術用語(様斬/ためしぎり)などで、左肩口から右わき腹へかけての斜めの斬り筋をいう。もっとも派手な斬り方で、転じて、大仰で目立つ行為や物事を指すようになった。

鎬をけずる

刀の鎬筋(しのぎすじ)が減ってしまうほどの、激しい斬り合いを指す。転じて、激しい競争やライバル同士が互いに切磋琢磨することを意味するようになった。実際には、皮鉄に覆われた鎬はそう簡単にけずれない。

「鎬筋」

折り紙つき

信頼性の高い、鑑定書のついた刀剣のことを指す。江戸の本阿弥家の鑑定書は“折り紙”仕様だった。転じて、信頼度の高い人物や技術、仕事などにつかわれるようになった。

鑑定書=「折り紙」

帽子をかぶる

刀の切っ先の部分を、鋩子(帽子)という。帽子にかかる焼き刃の返り(かぶり)も、刀の鑑賞には重要なポイントだ。転じて、明治以降は頭にハットやシャポーをかぶることをこう呼んだ。

帽子(鋩子)

鍛錬する

刀の材料である鋼(はがね/刃金)を熱して金床に据え、何度も折り返して鍛えて、不純物をたたき出すことを指す。転じて、身体を鍛えることなどの表現につかわれる。

切羽つまる

刀の鍔を固定し、カダつかないようにする小さな金具が切羽(せっぱ)。切羽がつまっておらず、よく時代劇などで刀を抜いたり構えたりするときに見かける、「カチャ」なんて鍔鳴りがすると、鍔が割れかねないので刀ではもっとも危険な状態。転じて、いまでは困って身動きがとれなくなるような、悪い意味合いにつかわれている。

鍔の上下にある切羽」

鍔ぜりあい

刀の鍔と鍔とが接触しそうなほど、近接して斬り合うことを指す。転じて、非常に至近で争うこと全般につかわれている。

鍔のいろいろ

元の鞘におさまる

抜いた刀を、その抜いた本来の鞘へ収めること。江戸期は、鞘が壊れると別の鞘へ収めて代用することも多かった。いわゆる、「反りが合わない」状態だ。転じて、元の状態にきちんと落ち着くことを指すようになった。

多彩な漆技法の江戸期「鞘」

反りが合わない

刀はひとつひとつ、すべて反り方が個々別々だ。だから、刀を別の鞘に収めようとすると、必ずどこかでひっかかる。(鞘あたり) 転じて、どうしても性格や気性が合わないことを意味するようになった。

「反りが合わない」

太刀打ちできない

ふつう刀と呼んでいるのは、室町後期以降の腰に指した「打ち刀」。それ以前は、「太刀」と呼んで腰には指さず、佩()いていた(吊るしていた)。馬上から、長大な太刀を打ち合わせて戦うのが平安期からの坂東武者だが、距離があって打ち合いのできないことをこう呼んだ。転じて、相手が強すぎてかなわない・・・というような意味に変化した。

刀とは表裏が逆の「太刀」銘

相槌を打つ

刀を鍛える際、金床の上に熱した鋼をのせて金槌でたたく。刀匠は小さな槌で、弟子の向こう槌(相槌)は大きな槌で叩き合う。この呼吸がうまくいかないと、鋼の不純物をたたき出しきれず、いい刀は造れない。転じて、相手の意見に、全面的に同意することを指すようになった。

抜き打ち

「不意打ち」ともいう。刀を急に抜いて、相手へいきなり斬りつける行為。いわゆる居合術のこと。転じて、「抜き打ちテスト」など、予告なく突然なにかを実行することを指す。

鞘当て

鞘と鞘をぶつけて、相手をひるませようとする行為。江戸期、武士は死を含む重い処罰を受けるので、やたら町中で刀を抜けなかった。時代劇では簡単に刀を抜くが、あれでは命がいくつあっても足りない。めったに刀は抜けないので、鞘と鞘を当てて喧嘩をした。いまでは「恋の鞘あて」など、相手を牽制したり挑発したりする行為をいう。

正真正銘

本来は「せいしんしょうめい」と読む。刀の茎(なかご)に切られた刀工銘が、偽物ではなく本物であることを指す。江戸期から、有名刀工の偽物(偽銘を彫る)犯罪があとをたたなかった。「しょうしんしょうめい」と読み方は変わったが、いまでも本物であることを意味する。

(なかご)に切られた刀工銘

刃が立たない

いまでは「歯が立たない」と書かれることが多い。「刃立て」というのは、相手を斬る刹那、刀を微妙に手前に引く所作のこと。剣術ではなく、スポーツの剣道の竹刀のように叩くだけでは、日本刀は扱えない。「刃立て」によって、初めて刀はすさまじい斬れ味を見せる。「刃が立たない」とは、いくら斬っても斬れないモノ、あるいは相手を指すが、転じて「かなわない」を意味するようになった。

うっとり見とれる

刀剣の拵(こしらえ)え=外装の、鍔(つば)・小柄(こづか)・縁(ふち)・頭(かしら)・鯉口(こいくち)・鐺(こじり)などの金具に彫刻された、金工技法のひとつが「うっとりタガネ」。「うっとり」の美しい金工細工に見とれることを、「うっとり見とれる」といった。転じて、美しいものから目を離せないこと。

「うっとり」タガネ技法

つな木とめる

刀は、拵え=外装から外して白鞘(しらざや/油鞘・休め鞘)などへ収めてしまうと、外装の金具類がバラバラになってしまう。それを防ぐために、刀の代わりに入れる木製の刀身が「つな木」。つな木を入れることで、拵えが散逸するのをとめた。転じて、いまでは離れていくものを、元の位置へとどめておく意味につかわれている。

「つな木」

刃切れが悪い

これも、いまでは「歯」の字が当てられている。文字どおり、刃の斬れ味が悪いという意味だ。だが、「刃切れ」の意味にはもうひとつ、焼き刃へ縦に入ったヒビのようなキズを指す。このキズができる刀は粗悪品が多く、刀はいつ折れてもおかしくない状態。刀のキズの中では、最悪のものだ。転じて、てきぱきせずにグスグスしている悪い態度や姿勢を指す。

地肌がきれい

刀の表面を地肌という。鎬(しのぎ)造りの刀であれば、地肌は棟(むね)側の「鎬地」と、焼き刃側の「平地」に分かれる。この地がよくつんで美しいことを、地肌がきれいと表現した。いまでは、女性などの肌がきれいなことを指す。

鎬地()と平地()

肌の木目

刀の地肌には、木を削って板にすると出るような、さまざまな木目(きめ)が見られる。刀の肌は、杢目(もくめ)肌・板目肌・綾杉肌・松皮肌など、木目の様子で表現されることが多い。いまでは、人肌の状態などを表現するときにつかわれている。

地肌に表れた木目

打ちこむ

刀をかまえて、相手に斬りかかること。または、金槌で叩いて鋼をよく鍛えること。転じて、なにかに熱中して取り組むことを指す。

地味な色合い

刀の地色が目立たず、しぶい色合いをしていること。実際には、青く輝く美しい鋼色をしていることを意味する。原料となる砂鉄の産地や鋼の種類によって、刀はさまざまな色合いを見せるが、青く明るい地の味が美しいとされている。いまでは、落ち着いた風情のある色合いを指す。

地味の美

付け焼刃

刀が戦火などで焼けてしまい、焼けた刀をもう一度鍛えて刃を付け直すこと。斬れ味は悪くなるが、大坂夏の陣で焼け身になった豊臣家宝の刀剣など、貴重な刀の場合は付け焼刃をして大切に保存された。付け焼刃は、茎(なかご)上の刃区(はまち)あたりを観察すると、不自然に途切れているのですぐにわかる。いまでは転じて、即席でいい加減になにかを行うことを意味する。

焼き刃が途切れる「付け焼刃」

抜き指しならない

刀が錆びて鞘から抜けなくなったり、刀がダメージを受けて「しなえ」(曲がり)が発生し、鞘へちゃんと収まらなくなったりすること。転じて、にっちもさっちもいかず身動きがとれない状況につわれている。

白ける

焼き刃の上に「映り」と呼ばれ、刃の文様に沿って黒や白の模様が浮かび上がることがある。黒い映りは、古い備前伝の作品などに多い。白い映りの立ったものを、白けるという。いまでは、その場の雰囲気がまずくなるという意味でつかわれている。

「白け映り」

見きわめる

刀を鑑定し製作年や刀工、真偽などを判断すること。室町末期からつづく、本阿弥家の鑑定用語としても有名。転じて、あらゆる物事の判断につかわれている。

地が出る

日本刀は、芯の部分にあたる芯鉄、刃の部分にあたる刃鉄、そしてそれらをくるんだ皮鉄など、さまざまな硬軟の鋼の組み合わせで鍛えられる。刀の研磨などで皮鉄が薄くなり、ときに芯鉄が見えることがある。これを、地が出ると表現する。また、研師が刀を磨くときに、本来の地肌が表れることも指す。転じて、本来の性格が出ることを表現することになった。

見にくいが芯鉄が出た様子

横手筋

刀の切っ先()にある筋目を、横手筋という。いまでは、「道の横手筋」とか「ビルの横手筋」とかいわれるが、本来は刀の鎬(しのぎ)筋と直角に交わる真横の筋という意味だった。

「横手筋」

身から出た錆

刀の手入れをサボって放っておくと、自然に赤錆や黒錆がわく。また、刀の柄(つか)に隠れている茎(なかご)の表面や鍔には、強度を増すためにあえて錆付けと呼ばれる処理が行われることもある。転じて、手を抜くことで自分が招来した失敗を指すようになった。

刃向かう

刀を相手に向けて構え、戦う姿勢を見せること。転じて、相手に反抗することを意味するようになった。

勝手ちがい

「勝手ちがい」とは、刀を扱うきき腕が左手の様子をいう。つまり、左ききのことで、「勝手」とは右手を指す。転じて、予想が外れて思うようにいかないことを意味するようになった。

筋ちがい

刀の茎(なかご)には、柄から刀身が抜けにくくなるようヤスリ目が施された。右側が下がったヤスリ目のことを「筋ちがい」といい、茎のヤスリがけではもっとも多い手法。いまでは、話の筋道や道理が通らないことを意味する。

見えにくいが「筋違鑢」

助太刀

戦う相手が強い場合、他人が参戦して加勢すること。いまでも、まったく同じ意味でつかわれている。

折り返し

刀を鍛えるとき、溶けた鋼を金床の上で何度も延ばしては折り返す作業を繰り返す。これを「折り返し」鍛錬という。また江戸期には、幕府の規制により長い刀を短くするが、有名な刀工銘が切れてしまうのを惜しんで残す方法に「折り返し」銘がある。いまでは、Uターンしたり引き返すことを指す。

「折り返し」銘

すり上げる

刀や着物の長さを、短くすること。(摺り上げ) 刀の場合、戦法の変化や時代の流行、幕府の規制などによって、刀はどんどん短くなっていった。本来は長い刀だったものをすり上げると、茎(なかご)に目釘穴がいくつもできる。いまでも、なにかを短くしたりする場合につかわれることがある。

目釘穴が多い「摺り上げ」

目貫きどおり

目釘穴の上、柄(つか)のまん中あたりに目貫(めぬき)と呼ばれる金具がある。本来は、目釘(めくぎ)と目貫は柄に刀の茎(なかご)を固定する、同一の役割をもっていた。だが、江戸期に目貫は目釘用途から独立し、柄の滑り止め、あるいは装飾品として発達した。もともとは、茎の目釘穴に目貫の通りがいいことを指す。転じて、いまは繁華街や賑やかな通りを意味する。

目貫()と目釘()

 

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